白銀の想

□白銀の想 2
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思い出してみれば、"あの日"スパーダの言う"あれ"にあってから軽く20年以上が経った。

当時はあれ以上の恐怖体験などしたことが無くそれこそトラウマになりかけていたものだが
間も無くして多くのことがあった所為かそれともその"多くの出来事"よりも忘れ去りたいほどにその記憶を嫌ったのか
今の今まであの日を思い出すことなどなかったはずなのに、今も目の前で作業を続ける二人のおかげで晴れて記憶を思い起こす運びとなった。

二人というのはここフォルトゥナの教団本部"跡地"で大切に保管…もとい封印されていたスパーダの書庫を
表向きは潮風に晒される前に貴重な本を保護する為の整理、…しかし本当を言えば荒らしているバージルとネロのことだ。

偽神騒動が終結したのはつい昨日のこと。
それならそうとさっさと帰ってしまえばよかったし、帰ってしまいたかった…のだが
あんなに派手に倒壊してしまっては封印も何も無くひょっこりと顔を出した物置
バージル曰く宝の山に足止めされてしまったという訳で。

元々知識欲旺盛なバージルは食い入るようにスパーダの残した書物を読みあさり
あれでもないこれでもないと"貴重な本だから丁重に扱え"と自分が言ったくせに乱雑に積み上げていく。

それに対してネロはネロでキリエというらしいあのお嬢ちゃんに
『いらない本は処分。
 人の手に渡ることが危険な本、またはいる本であるなら引き取ってもらって
 問題のない本であるならこのままフォルトゥナに置いておいてもらいましょう。』
そんな指示を出されたらしく、嫌そうな顔をしながらもバージルの横でまめまめしくも働いていた。

もう何時間もああしてバージルに付き合っているのか、いよいよよくやると感心してしまうほどである。

「坊やも頑張るな。」
「頑張るな。じゃねぇよ!おっさんも働け、あんたのお兄ちゃんなんだろーが!」

せっかくの労いの言葉はまだまだ余力を残しているのか跳ね付けられて威嚇でもって返された。

と、そんな風に威嚇されてもだ。
一向に、全く手伝う気にはなれない。ぼーっとこうして見物にまわっている方が性に合っているし
何かの拍子に気分が向いて手伝ったとしてもどうせ気味悪がられるだけだと知るダンテは軽く受け流し、椅子代わりだった瓦礫から腰を上げた。

それを見計らったかのように突如投げ渡されたのはボロボロの手帳。

「どこに行く気だ?」
「いや?もうそろそろだと思ってそっちに行こうとしたんだけどな。
 まさかご丁寧に俺のとこまで投げてくれるなんてのは思いもしなかったぜ?」

実際は暇つぶしに近くの森で悪魔をお供に散歩でも…と思ってはいたのだが

いつだって不機嫌そうだが更に輪をかけて不機嫌さを増すバージルの非難の眼差しを浴びながら
肩をすくめてそれに応え、とりあえず渡された手帳に視線を落とすことにした。
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