白銀の想
□白銀の想 4
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ふと刺すような視線に気づいてレインは目を覚ました。
青白くぼんやりとした部屋一帯をぐるりと眺めると
そこにはカーテンが引かれていない窓と自らが寝ていたベッドに一番近い壁にもたれるようにして寝ているネロの姿。
一旦部屋を後にしたものの、色々と心配になったネロが戻ってきたのを知らないレインはきょとんとしてひとまずもう一度周りを見回す。
それからすぐに目を覚ました原因であろう窓に近づき、カーテンを閉め
次にベッドに戻ると今度は自分に掛けられていた毛布とシーツを一気に取り去り引きずってネロの隣に座りこんだ。
「ネロ、寒くない?」
小さな声で起こさないように呟いてみる。
頬に触れてみると少し冷たくなって
肌寒い空気の所為でこの様子であると全身冷え切っている事はすぐに分かった。
けれど…"寒い?"
生まれて物心ついたころから暗闇の中にいて、ずっと眠っていた自分には季節、気候というものがよく分からない。
ずっと寒い場所にいたのだから目を覚ましてネロの手に触れるまで温かいというものを知らなかった。
けど、…温かいほうがいいというのはなんとなく知っている。
だからそっと自分とネロにシーツと毛布をかけ、ぴったりくっつく。
「きっとこのほうがもっと温かいよね。」
そう言ってもう一回、目を閉じる。
眠ることがこんなに楽しいなんて、眠ることがこんなに幸せだなんて初めて知ったこの感覚がとても嬉しかった。
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数分後には小さな二つの寝息が部屋中にこだまし、もうひとつのベッドで寝ていたトリッシュはそれを聞いていた。
やはり見ている限りの彼女の行動ではあの双子が彼女を嫌悪する理由が見えてこない。
ということは本人たちに聞くよりほかはないという事で。
音も無くベッドから立ち上がるとレインが閉めたカーテンの窓へ近づき、軽く開けて月明かりを部屋に取り込む。
わざと閉めていなかったカーテンの理由はレインは気付かなかったようだが遠く遠くでバージルがこちらをみていたから。
しかし、今はその視線を感じない。
「ならいいかしら?」
くるりと振り返って見た先には煌々とした月明かりを浴びながらに並んで寝る二人。
未だに眠りが深いことを確認しながら音を極力立てない様にゆっくりとカーテンを閉め直す。
今夜は月が明るい。
今度はきっとこの明るさで目を覚ましてしまうだろうから。
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レインがカーテンを閉めてすぐのこと。
「バージル、もういいだろ。」
唐突に咎めるような声が後ろから上がる。
その声の人物は確認せずとも誰かはすぐ知れ、バージルは振り返る事はしなかった。
その所為なのか後ろでは大きなため息が響いた。
「あいつは妹なんだぜ?もう少し信用してやれよ。」
「妹?信用?馬鹿か、貴様は。もし"あれ"が悪魔を呼んだ時はどうする気だ?」
「"あれ"じゃない、レインだ。あとレインは悪魔を呼ばないさ…絶対にな。」
"現に呼んでないだろ?"
そう言いながら夜空を見上げるダンテ。
"呼んでいなくとも悪魔が現れそうだ。"とも呟きその場をくるくると円を描くようにゆっくりと歩く。
「絶対、か。…根拠も証拠もないな。」
言いながらバージルも空を見上げた。
今夜は星の光が霞むほどに満月の光はあまりに強く一瞬目が眩みそうになった。
そして同じく眩みそうになったのは、心の方も。
満月の光は平常平穏を保つ悪魔の力に大きな波を立たせる。
力が大きければそれだけ波立ちは大きくなり自分自身の物であるにもかかわらず制御することが困難となる。
それは長年この力と連れ添った自分たちであっても時に逆らえなくなりそうになることもあるほどで
実際に今もその波は大きく心を激しく揺さぶるかのようにざわつき続ける。
なのに"あれ"はどうだ。
目覚めて間もないのに一切その力が波立つことはない。
波風どころか僅かな波紋すらも無く、まるで凍りついた水面の様に凪いでいた。
それでも"あれ"の力は本来自らの力を遥かに凌駕するはず
「それが怖いんだろ?」
考えていることが一緒なのか背後にいたダンテが問う。
「俺も恐い、恐いというより畏れっていうのか?」
静かに隣に並ぶと、手すりにもたれ掛かって閉められた窓に目を向ける。
「もう止めにしようぜ。レインの封印は解けたんだ、それに…もう封印なんて今さらできねぇよ。
…ただ…。」
語尾を濁して黙り込むとしばらく二人の間に沈黙が漂うが、それはすぐに一蹴された。
「"ただ"、なんだ?」
「ただ、坊やにもう一度封印されてくれと頼まれればレインは聞きそうな気がする。」
"けど今度は坊やが反抗するだろうけどな"と口調をいつもの調子に戻すとすくっと立ち上がりダンテはそのまま居候している家に足を進めた。
「これから"あれ"をどうするつもりだ。」
「だから、"あれ"じゃねぇって。
流石にここに置いておくわけにはいかないからな、連れて帰るさ。」
思わず振り返って聞いたところに"あたりまえだろ?"と問い返す様に首だけ回し目を合わせられる。
「…勝手にしろ。ただ何かあったときは…」
「殺すか?できないと思うぞ。
分かってるはずだ、"何か"のときには"約束"はない。
約束のないレインは俺達がどう足掻いても止められねぇよ。」
言うだけ言って満足したのかあくびをしつつ再び足を進めるダンテ。
そんなダンテが敢えて言わなかったモノにバージルは気付いていた。
確かに今もレインを恐れてはいる。
が、しかしそれ以上に生まれながらにしてあの父が危険視するほどの力を持つ彼女に嫉妬しているのだと言う事を。