白銀の想

□白銀の想 6
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暗い?
寒い?

何度も繰り返し問う声が聞こえる。
繰り返されるたびその声はどんどん強く、近くなる。

何故か聞きたくなくて耳を塞ぐけれど、声はそれを無視して直接頭へと響く。

嫌だ、ここは嫌だ。
そう思うのに、逃げだそうとするのに、体がいうことを聞いてくれない。
必死に動けと念じるほどに逃げようとしているのにその場に縫いとめられたように身動ぎひとつ許されない。

その間にも声は容赦なく近づき
とうとう、私の傍へとやってくる。
声はうずくまる私を見降ろすから、上から声が強く響く。


「貴方の心は空虚でなければいけなかったのに。」

「空虚のままが最も美しかったのに。」

「感情などに振り回されず、凛とする貴女が美しかったのに。」

「貴女の心はその美しい透明を捨て、色に染まり始めている。」

「空虚であれば、辛かったなどと思わなかったのに。」

「空虚であれば、泣くことも苦しむことも知らず、
 貴方は『幸せ』でいられたのに。」

「なぜ他人から与えられる幸せを、愛を求めるの?」

「いつかそれは自分を傷つけると知っているのになぜそうするの?」

声には感情がこもらない。
いつかに聞いたことのある、暗闇の声に震えが止まらない。

「もう一度闇へ、貴方のいるべき場所へ。」

「貴女が壊れてしまう前に」

「私が貴女を壊してしまう前に」

「帰りましょう?」

そう声は手を差し伸べる。
嫌だというのに今度は勝手に体が動く。

やめて。やめて。
心は叫ぶのに。

意志に反して手は声の手をとるけれど
帰りたくなんてない、だから涙が溢れて止まらない。
瞬きした途端に零れた雫、頬を伝う前に冷たい手が目元を拭った。

「泣かなくていい、涙など忘れてしまえばいい。
 もう一度眠れば、貴女はもう二度と泣かなくていい、永遠に"幸せ"でいられるの。
 貴女に"幸せ"を与えるのは暗闇だけなの、貴女に許された場所が暗闇なのだから。」

嘘、そんなの嘘。
やめてよ、私はここで幸せになるの。

「貴女のやめてこそ嘘。
 そこにいて"幸せ"になんてなれない。」

貴女はそれを知ってる。
声は微笑む。


…そう、私は"知ってる"。
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