白銀の想
□白銀の想 7
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依頼の電話も無く、各々したい様に過ごす昼下がりの平穏なデビルメイクライ。
ネロの心もまたそうだったが、利口な彼はよく承知していた。
"平穏"なんてものはいつもいきなり乱されるもの、だと。
しかし分かりきっていることであっても、案外その時になるとやはり驚かされるものなのがハプニングと呼ばれるものである。
そして今回平穏を乱したのは久々に仕事をした電話の受話器を下ろしたダンテの一言だった。
「坊や。今晩仕事に行って来い、レインと。」
「…は?」
何を言われたのかと考える間に手にしていた菓子を落とすがすぐにそれをキャッチし阻止したのはレイン。
「もったいないよ。」
何に動きを止めたのか、なんの気も知らず菓子を食べ進めていく姿を一旦見つめ
ゆっくりと先の一言の確認を取るべくその兄に向き直ろうとするがやはり気持ちが追いつかないネロの目は白黒。
「坊や、ちゃんと聞いてるのか?」
ちゃんと聞いてる。
「行きたかったんだろ?仕事に。」
ものすごく行きたかった。
「ならレインと行って来い。」
「そこだよ!!」
いきなり隣で上がったネロの大声。
それに丁度菓子を口に入れたところだったレインはむせ、口を手で覆って体を丸くした。
ただそれにも気付けないほどネロの心中は焦るやら、驚くやらと大変だったりする。
「あんたどっかに頭のネジ置いてきたんじゃねぇのか!?
いつもは妹馬鹿全開なくせに依頼に行かせるなんてどういう風の吹きまわしだよ!」
「俺は至って正常だぞ。
それにこれは案外可愛い妹を思ってことなんだが。」
椅子に座ったまま上半身だけを伸ばしたダンテが見たのはネロの後ろ。
ゴホゴホとまだ辛そうなレインとその飲み物を手渡していたネロ曰くもう一人の妹馬鹿。
「バージルからも何か言ってやれよ。」
「言ってやるもなにも既に決定事項だ。
ネロが行かないのなら俺が行こう。」
寧ろその方がいいとでも言う様にバージルはネロに一瞥をくれ、気付いたネロは睨みかえそうとするが今はもう手遅れ。
肩を落として首をひと振りし、深呼吸をした後にようやく落ち着きを取り戻してダンテを見る。
「…理由があるなら、レインと行く。」
「理由が無きゃ、レインを連れて行かせるわけがないだろ?」
レインは大切な妹なんだ。と笑いながら言ったダンテはバージルに説明を丸投げする旨を伝え、ソファに座るレインの隣を陣取った。
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「つまり抑えてる力を時々発散してやらないとレインにかかる負担が大きすぎるってことか?」
「そういうことだ。」
説明が一段落した所で繰り返したネロの要約に納得したバージルが頷き
当の本人であるレインは負担というもの自体に疑問を抱いて手のひらを見つめてぼぅっとしていた。
「…本人は特に何ともないみたいな感じに見えるけど。」
「"今は"の話だ。
負担の程度にも因るが風邪のような症状で治まるものから誰にも手がつけられない魔力の暴走に発展することもある。」
なってからでは遅く、そうならない方法が分かっているのだから手は打っておくべき。
とバージルが言ったところで、ダンテは"ただ"と付け加える。
「周りの事も考えて、魔力の解放量の限度は普段の俺達くらいだ。できるか?」
「うん!」
「よし、いい子だな。」
はっきりと返したレインにまるで飼い犬を褒める様に撫でまわして可愛がるダンテを見つつ
ここまで理由があればNOとは言えないネロは双子に対してどうしても聞きたい事が一つあった。
「…レインは戦ったことあんのかよ?」
余り言いたくないほど悔しいことだが、自分には戦いを知らない者を守りながら戦い続けるほどの力はない。
と自己分析をした結果の疑問。
その問いにきょとんとして答えたのはレインだった。
「ないけどできるよ?
んー…、もしかしたらネロよりは強いかもしれない!」
ぱたぱたと両足を振りつつ、無邪気に笑ってあっさりとし過ぎなほどに返された答えに
「だとさ。」
「決まりだ。」
双子は"自分より強い"発言をされ、項垂れるネロに苦笑しながら話を切り上げられようとした。
…が、そのときに。
「あ、…でもね。」
それを首を傾げながら尚も発言する話の決着をレインが阻止する。
「何か貸してほしいな。」
今事務所にいる4人の中で最も濃い蒼色が向いたのは、事務所の壁に無造作に立てかけられた閻魔刀とリベリオンだった。