白銀の想
□白銀の想 9
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朝、窓から眩しい光が零れるがそれを無視するようにネロは頭から毛布をかぶりすぐさま寝直した。
そろそろ起きなければ…とは思うものの瞼は重くて開かないのでそのまま軽く目を覚ましては2度寝、3度寝と繰り返していた時分。
そこに"きゃーっ"と緊迫感など欠片も無い可愛らしい声が2つ向こうの部屋から響いた。
「…またかよ。」
最初はその声を聞いて驚き跳ね起きていたが今では驚くことなどまずない。
思わず呟いた言葉通り、"またやってる"そう毎日のことにうんざりしながら毛布をベッドに叩きつけるようにして自らはぐり、声の聞こえたダンテの部屋に向かった。
「おい、いい加減にしろよ。
毎度毎度やってるとレインに愛想尽かされるぞ。」
ノックも挨拶もなしにドアを開けたネロがそう言った先には胡坐をかいたダンテとその膝の上に座るレイン。
昨日は彼女に頬ずりだったが、今日はわき腹をくすぐる遊びらしい。
「お、坊やか。おはようさん。」
とか挨拶しながらも擽るのを止めないダンテの手からよほどくすぐったいのかレインは手足をばたつかせて逃れようとするが
しっかり抱きかかえられているので逃げることができないでいた。
「ネロっ、助けて!」
しばらく呆れた眼差しで見ていたものの、息も絶え絶えに助けを求められたので毎度のことのようにダンテの腕から彼女を救出する。
「こんなにくすぐって過呼吸になったらどうすんだよ。」
「それなら安心しろ、そのくらいは加減する。」
今日も面白かったというように機嫌の良いダンテは朝食をとりに下に降りて行く。
これが最近の朝の光景。
一番早くに起きるレインが朝食を作り、深夜に依頼などで出かけていなければそのまま階段を上がって順番に部屋主を起こして回る。
…のだがいつもバージル、ダンテと来てネロまで来ることはない。
と言うのもダンテが寝起きにレインを大いに構い、レインのはしゃぐ声で起きたネロがダンテを止めに行くからであって
まるでそれを狙っているのかレインはレインで自分で逃げだす事はせず、全て甘んじて受けている様にもネロには見えていたりする。
現にダンテと同様に下の階に降りながらレインも面白かったというように笑い始めた。
「ネロ、毎日ありがと。」
「ありがと、じゃない。毎朝助けに行くこっちの身にもなれ。
それにいい加減にしておけって昨日も言ったばかりなの、忘れたのか?」
「忘れた!」
「…お前な。」
こっちは正真正銘血の繋がった兄とはいえあのダンテ、いい加減何をされるかわかったもんじゃないと神経をすり減らしていると言うのに。
人の苦労など知ったことじゃないと好き勝手自由気ままな性格はやっぱり悪魔寄り。
けれどそうは思っても放っておけないほど何処か抜けていて危なっかしいのが更に性質が悪い。
「とにかく、もう少しお前には危機感が必要なんだ。な、バージル。」
釘を指すネロが先に起きていたバージルに同意を求めると無言ながらすぐに首肯が返ってきた。
…が少々ぎこちない肯定、その様子を見たネロはすぐに一抹の不信感を抱く。
「なぁ…バージルは何もしてないよな?」
「するわけないだろう。」
今度は不安を抱かせない瞬時の返答。
しかしそれに小さく首を傾げたのはレイン。
「そんなことないよ、バージル兄さんは今日…」
「レイン。」
何かを言いかける妹の言葉を遮るようにバージルが名前を呼ぶと珍しい笑みを浮かべ、ただ人差し指を口の前に立てる。
その瞬間『バージルは大丈夫』という信用が崩れていく音がネロにははっきりと聞こえた。
まさかダンテよりも危険な人物だったとは…。
「な、なにされたんだよ!言え、レイン!」
「言えって、兄さんが言っちゃダメって言ってるし…。」
取り乱したネロはレインの両肩に手を置くとぶんぶんと揺さぶり始めるがそれは振られると気持ち悪くなると止められた。
これでは全く治まりのつかないネロ。
そのまま頭を抱えしゃがみ込んでいるとそこに追い打ちをかける様にトリッシュが口を開く。
「この二人が"妹だから"って理由だけで手を出さないなんて事があると思った?」
だからあの夜も言ったでしょうと呆れたような乾いた笑い声が響く中。
ネロにこんなにも心配されている当の本人は"あの夜"で何か思い出したのかは両の手をポンと合わせた。