白銀の想

□白銀の想 15
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彼女が居なくなって、既に2か月は経とうといていた。
その間、誰とも必要な事以外の言葉を交わすことはなく。


魔界での王を決める戦いの所為か、あれから少しの間は依頼がひっきりなしにあり、
その依頼に何処に向ければいいか分からない思いをぶつける様にして過ごしたが、
それが来なくなった今はただ無気力に一日を過ごし
もし…と無意味なことばかり考えていた。


「ネロ、入るぞ。」


閉じこもったきり中々出ることが無くなった彼の部屋に入ってきたのはバージル。
最近では、何処に行ってるのか知らないが事務所に居ることは少なく、
顔を合わせることが稀になっていた。


「…なんだよ。」
「話がある。下に来い。」
「ここで聞く。」


本当は聞きたくない。誰とも話したくない。そうベットの端で背を壁に預けうずくまる。
これではまるで聞き分けのない子供だと分かっているものの、
これ以上傷つくのが恐ろしくてこうするしかなかった。


「いいじゃない、バージル。ここで話せば。」


その後ろから出てきたのはトリッシュ。
疲れたような顔をしているトリッシュは最近バージルと同様にずっと出かけていた。
バージルと何かをしていたのだろうか。


「そうだな。単刀直入に言う。
 …あれが魔界にお前を呼ぶほどに強くなれ。」
「…魔界に行きたいのかよ。」
「あぁ。強くなったらというのはお前のことだ。
 お前があれが認めるほどに強くならなければ、魔界に行く術はない。」
「俺は…行きたくない。」


嘘だったと分かるのが怖い。
このままでいれば、まだ何とか自分を誤魔化せる。だから、魔界には行きたくない。
そう顔を伏せていると、バージルはため息を一つ吐いて、部屋を出ていった。
残ったトリッシュはネロに近づく。


「…ネロ。貴方が苦しいのはわかるわ。ずっとあの子と一緒だったんだもの。」
「うるさい…。」
「認めたくないのも分かる、でもずっとそうしてるわけにはいけないこと、分からない?」
「うるさいって言ってるだろ!一人にさせてくれよ。」


聞きたくないと耳を塞ぐネロ。
それに説得を諦めてトリッシュは出ていく。


認めたくない。
ずっと、彼女に騙されていたなんてそんなこと知りたくない。
きっと…これは長い永い悪夢なだけで、いつか目が覚めて…。
そうすれば…その時は、彼女が隣に居て。



こんなにも苦しい思いをしたのは初めてで、どうすればいいのかも分からず、
ただネロは心の殻厚くする。
誰にも傷つけられないように。
少しでも、この苦しみから逃れられるようにと。
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