白銀の想

□白銀の想 17
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王が見込んだだけはあると驚かされた。
2週間では魔界にいれる時間は戦わずに6時間、戦って4時間が精一杯だと思っていたが
それを遥かに上回るスピードで慣れたネロは正直いつまででも滞在が出来そうなほどだった。


「まぁ、そんな弱い者にレイン様が従う訳もない…か。」
「なんかいったか?」
「いや、なにも。」


そう話す二人を見つめトリッシュは面白い。と一言呟く。


「あの悪魔、自分では気付いていないみたいけど、
 妙に人間っぽくなったわね。ネロの言うことに一々返す様になった。」
「そうだな。無駄話も多い。」
「そうそう、意外に面白いぞ、あいつと話すと。」


変わった変わったと話す3人も少し変わったことには気付いていない。
今日でこれも最後の14日目。
色々と苦心しながらネロに付きあっていたヴィネアも一つ荷が下りたというような顔をする。


「今日はもう終いにしよう。明日、魔界への道を開く。」
「それまで休んでいいってことか?」
「休む以外に何をするつもりだ?」


そう言いながら疑似魔界の術式を解くと何かを一気に数個投げる。
受け取ったのは、黒い石。
光にかざすとガラスの様な光沢がある。


「なんだ?これ。」
「黒曜石だ。負の気を集めやすく魔気を通し易い。
 それを持っていなければ、敵とみなされ悪魔あふれる魔界で会うたび一々に相手をせねばならん。
 大切なお客様に配られる『招待状』だ。」
「ふーん。」


それを聞き、3人にそれぞれその石を投げるネロにヴィネアは右手を出す。


「なんだよ。」
「私のペンダントを返せ。もう訓練は終わったのだからお前には必要のない代物だ。」


今までの憂さ晴らしにとからかおうとしたがそれを予想していたのか
ダンテはこちらに来ると素直に出せと軽く頭を小突く。
ペンダントをコートのポケットから取り出し差し出された手に乗せると、
それに安心したような笑みを零す悪魔。


「なぁ、なんでそんなにそれが大事なんだよ。」
「…言ったろう、これは王が私のために精製したものだと。」
「それだけか?」
「それだけだ。」


少し納得がいかないがあまりしつこく聞いて怒られるのは嫌なのでそこで止める。
いつもの烏の姿に戻ると自らの首にかかるペンダントを誇らしげに見せる。


「明日は事務所で待っていろ。私は帰る。」


珍しく急いで帰ろうとする烏にダンテは慣れたようにその烏の頭を軽く触る。


「お?もう帰るのか。」
「今日はレイン様が遠征から帰っていらっしゃる。出迎えもできずして何が使い魔か。」
「あの子も苦労してるのねー。」
「王は女性。しかも逆賊スパーダの娘であらせられるからな反抗する悪魔も多い。」


それでも敵う者はおらぬというのにと苦々しげに吐き捨てる烏。
今までも訓練の合間に魔界の様子を聞くことが多かったが、
こんなに嫌そうに話すヴィネアはなかなか見なかった。
相当に苦労しているんだろうな。となんとなくわかる。
そう思っていると、烏はいつの間にか姿を消していた。


「あいつも忙しい奴だな。」
「忙しくした原因はお前でもあるだろうけどな。」
「言うなって。」


それでも、あの悪魔のお蔭でようやく明日、彼女に会える。
彼女の為だから、ここまで頑張れた。
だから、早くレインに会いたいとそれしか今は頭の中にはない状態。


「なぁー、おっさん達はレインに会ったらまずどうする?」
「ん?そうだな…。考えてなかったな。」
「まずは反抗するでしょうから、大人しくさせるのに骨が折れるとしか考えてなかったわね。」
「しかも魔界、あいつの独壇場だろうな。」


そこに、とりあえず。と全員が一斉に口を開く。


「嘘をついたんだから、叱っておかないとな?」


見えない月に向かって面白そうに笑う声が響く。
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