籠越しから見る空

□籠越しから見る空 1
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目を開けると、不気味に笑う男と目があった。
見慣れた日本人の顔ではなく、見慣れない西欧の顔。
そんなことよりも…あの目は嫌だ。
一体ここはどこだろうと気味の悪い目から視線を逸らそうとすると、見えない力で見たくないその目の方を向かされた。


『いらっしゃい。…いや、君のいるべき場所へようやく帰ってきたね、おかえり、贄の子。』


優しく聞こえはするけれど…それでもやはり不気味で胸が心臓を鷲掴みにされた様に痛くなる。


「贄の子…?何のこと?」
『千年に一人生まれるか生まれないかの珍しい人間のことさ。』
「千年に一度…生まれるか生まれないか?」
『贄はそのままの意味。君は悪魔にとって貴重な存在なんだよ。』


悪魔?…そんな空想上、おとぎ話に出てくる様な生き物にとって…貴重?
それに千年に生まれるか生まれないかって…馬鹿げてる。
それではまるで『普通』の自分から一番程遠い『特別』じゃないか。


「そんなわけない、何かの間違えです!私は『平凡』な人間なんです!」
『平凡?君が平凡であってたまるものか。君の全てが私たち悪魔にとって
 喉から手が出るほど『特別』であるのに、普通であるわけがない。』


訳が分からない。
自分は『普通』の人間なのに…。
『悪魔』にとって喉から手が出るほど…『特別』なんて言われても困る。


「そんなのいきなり言われても困ります。…誤解なんです…私はそんなんじゃない。」
『今はまだ混乱しているだけだ、すぐ分かるよ。すまないがこちらの不手際でね、馬鹿な奴が君を其処に落としてしまった。
 大丈夫、すぐに迎えに行かせるから。絶対にそこから動いてはいけないよ。』
「迎え?待って!私を帰してよ!」


帰して、元の場所に。
大好きだった『平凡で普通な』日常のあの場所に戻して。
そう何度も言っていると、優しげな声は苛立たしさを滲ませるものに変わる。


『もう戻れぬ…。今回の贄は魔力の効きが悪いな。』
「ま…りょく?そんなこと言ってないで!人の話を聞いてるの?貴方が連れて来たんでしょう、帰してよ!」


最後の『帰して』に苛立ちはピークに達したのか声は本性を表す様に怒鳴り声をあげた。


『聞かぬ!絶対に…絶対にそこを動くなよ、小娘!』



その声に驚き跳ね起き意識を取り戻すと、見知らぬ路地裏にいた。
空を見上げれば真っ暗な空と真っ赤な月が…。


「逃げないと…。」


殺される。
直感でそれだけ分かった。
当てもなくただ、そこから走り出そうとするが…。
その瞬間、動かそうとした体が止まる。


『動くなと言われた。絶対に動くなと言われた。
 私は…これを守らないといけない。』


「違う!私はあの人の言う事なんて守らなくていい!」


その考えに一人叫び、否定すると動かなかった体が思い通りになる。
早くどこかへ。
そう思いながらようやく私は駆け出した。
とにかく匿ってくれるような…そんな場所を探すしかない。


走り始めた逢夏の後ろにはさわさわと小さな音を立てて黒い闇が動き出していた。


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「なぁ、おっさん。だまされたんじゃね?」
「そうだなー。これは聞いてない。」


目の前に現れるのは下級中級と雑魚ばかり。
騙されたというのは、その数だ。


「倍はいる。」
「んなこと言われなくても分かってるって!」


呆れてリベリオンを地に刺し、頬づえをつくダンテ。
とりあえずこいつらを片付けるだけと背に負う剣の持ち手を捻り、爆音を響かせているのはネロ。


「さてと…ここは任せる。」
「高みの見物でもする気か?」
「そういうこと。」


そこらへんに横倒しになっていた比較的汚れの少ない金属製のダストボックスに腰をかけると頑張れと一言。
悪魔や依頼主よりその態度の方に呆れるよ。と呟くとネロは前を見据え、悪魔を消すには十分な炎を吹くレッドクイーンを取った。


しかしそれは無駄になった。


ただそこに漂うようにして現れた悪魔が踵を返し皆一様に何処かを目指し始めたのだ。


「あ…?」
「坊やは相当悪魔に甞められてるな。」
「んなわけねーだろ!」
「逃げるわけでもなくこうもゆっくり背をむけられちゃ、そういうしかないだろ?」


ぐっとそれに言葉を飲むと、こっちを向けとばかりに右手で一体を引き寄せる。

がそれでも悪魔は、逃れようとするわけでもなく。
ただ一心不乱に何処かへ向かおうとしていた。


「どうなってる…?」


その様子を見、ダンテがそう呟いた時だった。


悪魔の向く先から誰かが走ってくる。
目をこらせてみればそれは女。
東洋人を思わせる黒髪を振り乱しながら、左の二の腕を右手で抑えながら走っていた。


ネロもダンテも呆然とそれを見ていると、いきなり捕まえていた悪魔が暴れだす。
彼女をみて、悪魔はそれが欲しいと願うように掴まれた身の一部を引きちぎりネロの手から離れた。


「な!」
「坊や、それしっかり抑えとけ!」
「分かってる!」


もう一度捕まえると今度は止めを刺して、そこらに放る。
悪魔を片付けるよりもあの一般人をここから逃がすのが先決だと、先に行動を起こしたダンテの後を追った。
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