籠越しから見る空

□籠越しから見る空 2
2ページ/7ページ

その言葉に感動をしていた逢夏と違い、ダンテとネロは口をぽかんと開けて驚いていた。


「…お前、そんなこと言えたんだな。」
「意外すぎる…。」
「なによ、あんたたち失礼ね。」


そんなにお仕置きされたいのかしらと何処から取り出したのか銃をちらつかせるレディに降参と両手をあげると目を逸らす二人。
絶対に反省していないと分かるその目の動きに本当に反省してる?と銃を収めないことにネロがだんまりを止めた。


「なぁ、レディ。あんまり逢夏の前で銃とか出すなよ。見慣れないんだろ、怖がってる。」


取り出された銃に無意識に身をすくませていた自分を心配するような目を向けるネロとそれに気付いたレディ。


「あ…ごめんね、逢夏!そういうつもりじゃなかったの、ついいつもの癖でね?」
「いつもの癖がこんなんじゃ、人間性危なくって仕方ないよな。」
「ネロ…?貴方、後で事務所の前に出てらっしゃい。」
「絶対に嫌だね、説教は嫌いなんだ。」


べーっと舌を出して悪戯っぽくレディに笑うネロは大丈夫だからとこちらに目で合図をしていた。
それに重く感じていたものが取り去られて、また無意識に…でも今度は笑い声が漏れる。
目の前で続く二人のやり取りが面白くて、軽くお腹を抱えて笑っていると


「やっぱ、逢夏は笑ってる方が似合ってる。」


そう言って悪戯っぽかった笑みを柔らかく嬉しそうなものに変えるネロ。
同じようにダンテやレディも安心したように微笑んでいた。

レディは私が運が悪いと言った。
けれど、やっぱりそうでもないと思う。
こんなにいい人たちに囲まれているのだから、私は…本当に絶妙な所で運がいいのだ。



自分が気味が悪いほど『いい人』になっているような気がした。
今まで見知らぬ者や親しくもない者が落ち込んでいようがどうでもよかったのに、
何故か会って話して一日にもならない彼女のことは人ごとの様に思えなくて、落ち込む顔を見ていて耐えられなかった。
柄にもないことをしていると後で彼女のいないところで
ダンテやレディにからかわれるんだろうなと思いつつ、今はそれでも構わないとも思う。
ようやく本当に笑ってくれた。
今まで浮かべていたのは困っている顔や心配し、今の状況に恐れる顔、その中でこちらを安心させようと無理して笑う顔ばかり。
でもそれが続くのはごめんだ。
一緒に暮らすのならば、心の底から楽しそうに、嬉しそうに笑う子でいてほしい。


…そう思う俺はやっぱりいつもの俺から考えれば、少しおかしい。


------------------------


会話も一段落して、起きていいと許可を貰い今いる部屋を与えられた私は、レディとネロが買ってきたものを片付け中。
服は一回袖を通してサイズが合えばタグを外しクローゼットに収め、合わなければそのままに綺麗にたたんでおいた。

このままでは味気ないだろうと、すぐ届くようにとレディが手配してくれていたインテリアを
ネロやダンテに手伝ってもらいながら部屋に配置し終え、ようやく一息つく。


「これ、返品でいいんだよな?」
「うん。明日すぐに返しに行くってレディが言ってた。」


まだたたみ終えてなかった服を手に取り聞くネロにそう言うと、彼は慣れた手つきで服をたたみ始めた。


「いいよ!自分でするから。」
「まだこんなにあるんだから、別にいいだろ?二人でやれば早いし。」


競争と言いながら手を止めずに一着一着綺麗にたたむネロに負けないようにと服に手を伸ばす。


聞いた話によると彼は居候の身らしい。
てっきり見た目が似ている為にダンテの弟か息子か甥に当たるのかと思っていた。
(そういうと彼はとても嫌そうな顔をしていた。)
詳しく聞くと昔居た場所でひと騒動あった時にダンテに出逢って、それ以来強くなれる様にと修業に励んでいるのだとか…なんとか。
そんなネロは居候の身という立場をつかわれ、炊事洗濯などずっと一人でやってきたらしく、
ダンテも手伝ってあげればいいとは思うが、先に彼と話しているとそういうことはしない人ということがよく分かっていた。


ふとそこで思うのはネロは甲斐甲斐しい人だということ。
ところどころ荒っぽそうな感じが見え隠れするのに、
ふたを開けてみればネロはまめで繊細で人の心に敏感に反応し気を使ってくれる人だった。
ダンテもレディもとてもいい人で優しくしてくれるがあれは大人の優しさというもので、
心地のいい優しい雨が上から降り注ぐようなそんな感じ。
それに対してネロは年が近いこともあってか遠くから与えられる優しさや気づかいではなく、
もっと身近ないつまでも近くをそよぐ温かい風のような感じだった。


まぁ例えなどどうでもよくて、結局のところ、ここの人は優しい。
本当にいい人だなと黙々と服をたたむネロを見ていると、それに気付いたのか顔をあげ怪訝そうに私を見返す。


「なんだよ?さっきからこっち見てさ。」
「え?!あ…綺麗にたたむし早いなって思って。」
「ここにきてもう一年はたつからな、それだけやれば身につくって。…それより俺の話ちゃんと聞いてたか?」


思考に没頭してて何も聞いてなかった。
ただ黙々とたたんでいたんじゃなかったっけ?と思いつつ、こちらに非があるので軽く頭を下げて謝罪する。


「ごめんね、聞いてない…。」
「ったく、何ぼーっとしてんだよ。あのな、二人で家事の分担しないかって言ってたんだ。」
「分担?いいよそんなことしなくて。私が全部するから。」
「そういう訳にもいかないだろ。そんなの悪いしさ。」
「そういう訳にもいくし、悪くもない。だってネロは他にもしなきゃいけないことあるでしょ?私、この中でしかできることないから。」


別に嫌みでいったつもりではなかったのに、『この中でしか』と言う言葉に表情を曇らせるネロ。
ようやく手を止めると床をじっと見つめる。


「…そうだよな。本当は外に出たいよな。」
「違うの!そういう意味じゃないよ。仕方ないし、それよりも私…ここ大好きだよ。まだ来て、ほんのちょっとだけど。」


ここに来れてよかったと思ってるというと、無理すんなと左手で頭をくしゃくしゃと撫でられた。

無理なんてしてない。
本当にここに来てよかった。
真っ直ぐ平凡に終わっていくと思った人生が奇妙で恐ろしいほうにだけれど曲がってしまって、
けれどこんなに素敵な人たちに会えたことに…今はその恐怖にさえもお礼を言えてしまいそうだった。


ただ、気になるのは向こうに置いてきてしまった。…家族と友人と大切な『ネロ』。

あの小さな体で悪魔に立ち向かった猫のネロは、無事でいるのだろうかとそれだけが心配だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ