籠越しから見る空
□籠越しから見る空 3
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本当にダンテの奢りということで食事を軽く済ませた5人はせっかく来たのだからを買い物を楽しんでいた。
…主に楽しんでいるのはレディとトリッシュで、荷物持ちはもっぱらダンテとネロであったが。
「ねぇ、これはどう?」
そう品物を渡すレディに悪いからと横に首を振る逢夏。
遠慮なんてしなくていいとそれを聞かずに会計を済ませてしまうトリッシュ。
本当は他に欲しいものがあるのだが、買い物を楽しむ二人を前に中々言いだせずにいた。
そこに出かける前に欲しい物を聞いていたネロが盛り上がる二人に口を出す。
「なぁ、そろそろ本屋いかないか?逢夏が欲しい本があるって言ってたんだけど。」
「あら、そうなの?それなら早く言ってくれればよかったのに。」
なんで教えてくれなかったの?とお決まりの様に逢夏の頬を抓るレディ。
もし痛覚があるならばここで声を出していたかもしれないが、今の私はそうでもなく、ただなんとなく圧迫感しか感じなかった。
それでもその手を痛くない程度に叩いてやめさせたのはネロ。
「止めてやれよ、赤くなってるだろ。…あとさ、あんたらのこの状況に口出しできるほど逢夏は図太い神経してないって。」
「そうだな。逢夏は女の子特有の繊細さがあるからな…。見習った方がいいんじゃないか?」
荷物持ちの腹いせなのか少し喧嘩腰の二人の発言。
それに笑みを浮かべながら二人の目の前で仁王立ちのレディとトリッシュ。
…綺麗すぎるその笑みに命の危機を感じるよ。
と私自身その中の当事者の様な気がして正直怖かった。
「ネロ…よほどその喧嘩買ってほしいみたいね。」
「ダンテのは女性らしさが足りないとそう言いたいのかしら?」
にこにこと擬音語をつけたくなるほどの笑顔を続ける二人に挑戦的な笑みで返すネロに同様に笑うダンテ。
その恐怖の2つに板挟みの逢夏は、止めてとは声に出せないため、
そのまま両方を交互に見、無理だと諦めがっくりと肩を落とした。
そこでレディがため息を吐く。
「逢夏の前だから、今日は許してあげるわ。じゃあ本屋にいきましょうか?」
背中をぱんぱんと叩き逢夏を連れていくレディとネロの持つ荷物を取りそれの後につくダンテ。
そこから分かれ、ネロとトリッシュは店と店の間へ。
誰も通らないような昼間でも薄暗い場所へと入っていく。
目的の場所に着くのにそう時間はかからなかった。
ケタケタと気味の悪い小さな笑い声が建物に反射してエコー掛かりさらに気味悪さを増すその場所。
「あそこまで行動を制限してもダメなんてね。
…まぁ分からないこともないわ、『どうしてもあの子が欲しい』その気持ち。」
そう言いながら臨戦態勢のトリッシュ。
ネロは今まではめていたグローブをとる。
「あんまりこれ外したくないんだよなぁ、つけるの面倒だし。」
「じゃあそのままで戦ってみたら?」
「無理言うなよ。俺はあんたみたいに器用じゃないんだ。」
逢夏が来てから反応を続け、淡く光り続ける右手。
いつもなら依頼以外の外出時にしかグローブには世話にはならなかったのだが、
何かあってはと気休め程度に逢夏の前ではずっとはめていた。
見せてしまえばきっと怖がられてしまうだろうと、それが怖くて見せる事が出来なかったという理由も…無い事はない。
見据える前には昼間にも関わらず、多くの下級悪魔。
上級、中級よりも弱いそれらは、弱いが故に力を持つ者よりも強い欲求を満たそうとただ真っ直ぐに突き進む。
改めてどれだけ『贄』が悪魔にとって魅力溢れる存在であるのかが分かる光景が前に広がっていた。
「さっさと片付けて戻るわよ。逢夏のことだから心配してるわ。あの子、感がいいからなおさらね。」
「分かってるって、5分で終わらせる。」
言うが早いがそれに向かって右手で、悪魔から剣を奪うネロ。
そのまま斬り込んでいくネロに対してトリッシュは自身の放つ雷で攻撃を始めていく。
逢夏は本当に感がいい。
白昼堂々、街の中で銃を扱えば混乱を招くというのもあるが、丸腰の状態で外出したのはそういう理由だ。
出かけの準備をしていた時だ。
レディが武器を携帯しているのは見なれた所為か反応はしなかったのに、
俺を含めトリッシュやダンテが銃を持つことに対しては少し怯える表情を見せたのだ。
見せない様に、気付かれない様にと配慮していたはずなのに呆気なく見破ってしまうほど逢夏の感はいい。
最初に『本当にいいの?』と逢夏が聞いたのはそのため。
武器を持つようであれば自分を連れていかなくていいというのと、
武器を持たない状態で悪魔が現れてしまったらどうするのだとこちらの身を案じたからだ。
逢夏に気にするなと言ったのは俺だ。
そういったからには俺がこれを早く片付け彼女を心配させないように何事もなかったかのように戻る必要がある。
すぐに戻るから、上手く誤魔化してくれとレディとダンテに思いながら、残り僅かとなった悪魔に向かう。