籠越しから見る空
□籠越しから見る空 5
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その話が終わると、準備が終わったダンテに手招きをされ呼ばれた。
近寄ると、二人に聞こえない様にと少し離れたところへ連れて行かれる。
「逢夏。頼みがあるんだ。」
「頼み?」
「あぁ、お前にしか頼めない重要な内容なんだが…。」
両肩に手を置かれていつになく真剣そうな声音。
何だろうと頼みの内容を無言で促すと、ため息を一つそれを口にした。
「レディと坊やが喧嘩しない様に見張っておいてくれ。
帰ってきたら事務所がないなんてことは嫌なんでな。」
「喧嘩?二人が?」
「元々組み合わせのいい奴らじゃないんだ。
坊やは喧嘩っ早いし、レディは面白がってそれを買うし。」
苦労してるんだななんて他人事の感想を抱きながらもよく考えれば
何かある時は必ずダンテかトリッシュが入ってたような気がした。
でも…
「仲良し過ぎるだけだと思うけど。」
「まぁ、仲良くはあるんだが…。仲良くあるから言いにくいというか。」
「…確かにそうかも。」
うーんと悩む様についと視線をすべらせていたダンテが途端に目を見開く。
その視線を追って時計をみれば既に出かけると言っていた時間をとうに過ぎていた。
「完璧に遅刻だな…。行ってくる。」
もう諦めたのかのんびり事務所を後にするダンテにいってらっしゃいと見送っていると肩をちょんちょんと叩かれる。
「何?」
「おっさん、なんて言ってたんだよ。」
肩を叩いたネロはところどころ話が聞こえていたのか怒りのオーラが見え見えの笑顔。
その後ろでは同様に聞こえていたのかうすら怖い笑みのレディ。
「えー…っとね…。二人の言う事をよく聞いて留守番して「「違うだろ(でしょ)?」」…はい。」
怖いよ。二人とも怖いよ。
笑顔なのに低い声であんなこと言われたら誰だって本当の事を言うよ。
心の中でダンテにごめんなさいと謝って正直に話すと二人はまた声を揃える。
「「安心しろ(して)、逢夏の前じゃ絶対に喧嘩しない。」」
な?と引きつりながらも笑みを浮かべて互い見ながら確認し合う。
…本当なのか少し心配。
でもやっぱり、仲が悪い様には見えなくて
きっと、仲が良いから喧嘩しちゃうあれだよと一人そう決めつけることにした。
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「「暇。」」
少ししてから揃った二つの声。
こういう所がぴったりならやっぱり仲は良い気がする。
先ほどまで各々したい様に過ごしていた二人はその暇つぶしにすら暇を感じ始めたようで…。
そんな二人にはお昼寝を進めたいけれど、
『私のお守』という役目があって…守ってもらう側の私がそれを軽々しくは口にできなかったそんな中。
いつも通りソファに深く身を預けて座るネロは中途半端な睡眠でまだ眠いのかうとうと。
そこでレディは悪戯っぽい笑みを浮かべその額を指で弾く。
『パチン』と小気味のいい音がとても痛そうで思わず自分の額を押さえた。
「いってぇ!」
「寝ちゃダメでしょう。」
「それでも起こし方があるだろ!」
「そうだよ。気を抜いてる時のでこピンって痛いんだよ。」
自分の額を押さえたままネロの加勢に回ると何故かそのネロになんでお前までと呆れてた。
なんで?
…きっと痛いと感じることが羨ましかったのかもしれない。
でもそんなこと絶対に言えなくて、なんでだろうね。とネロに返しておでこを見るとその箇所は結構赤くなっていた。
「赤くなってる。本当に痛かったんだね。」
手鏡を持ってきてそれを見せ、冷やす?と聞くとそこまではいい、心配し過ぎだと苦笑された。
と、その苦笑もレディを見るときには怒る顔に変わる。
「…おい、やり過ぎだろ。」
「いーじゃない、減るものじゃないし。」
「ふーん、そんなこと言うのか。」
そこで仕返しだと言った間もなくすごい速さでレディの額に軽く指の腹でネロは叩いた。
「いっ…たい!なにすんのよ!」
「いーだろ、減るもんじゃないし。
爪が当たらなかっただけ有り難く思え。」
以前のように舌を出して優越感たっぷりに笑うネロと眉を寄せて怒るレディ。
バンッと目の前のテーブルを叩き大声で怒鳴り、
それに対して聞こえないと耳を塞ぐ二人の様子を見ているとまるで子供だと可笑しくなった。
「笑うな!」
「笑わないで!」
「ごめん、ごめん。でも…二人とも可笑しい!」
笑い過ぎて涙が出そう。
ネロの前ではどんな涙でも見せないようにと言われているのでキッチンへと向かう。
必死に笑いを押し殺しながらせっかくキッチンにきたのだから、何か作ろうと思い立った。
向こうで笑われてもまだ子供の様な喧嘩を続ける二人が仲直りできるように。
そう思って冷蔵庫を開けると、
…何故か『生クリーム』と『苺』が。
私の当番だった2日前にはなかったはず。
誰が買って来たんだろう?
昨日の当番だったネロ?
…甘いものが好きなのかな。
それなら、とその二つを取って準備を始める。