籠越しから見る空

□籠越しから見る空 8
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一通り画像を見終われば、今度は動画。
主に学校で撮られたそれらをレディやトリッシュと見ていた。


「ね、逢夏。止めて。」


一時停止を押して指差されたのはやはり幼馴染。
携帯を預けた友達に撮られたその動画には丁度、数人が共に映る中で幼馴染が私の首に腕を回して何か話しているところだった。


「随分仲が良かったのね。」
「うん、だって幼馴染だしね。
 何かあったらすぐにこうなんだから、困ってたよ。」


この時は何を話していたんだっけ?と考えればそれはすぐに出てきた。
あーそうだった、そうだった。
確かこの時に…。


「この時に?」
「この時に…。」


私…同じクラスにいた好きな男子に、思い切って話しかけようとしてたんだ。


「好きな!?」


ポツリと呟いた言葉に大きな声を出して反応したのはネロ。
ソファで寝ころんでいたところに、驚きの腹筋力で上半身を素早く起こした。


「…あ、違うよ!もう、好きじゃない…っていうか…好きって言うより憧れてただけなんだと思うの。」


クラスの女子には人気があったし…
何より

『あいつにはもう彼女がいるんだぞ?』

話しかける前にいつも通り、何気なく近づいてきた幼馴染が耳元で教えてくれたんだ。

とそこまで言ったところでネロはまた元通りソファに寝そべる。
人がほんの少しだけど心を痛めながら初恋のしかも失恋話をしているのに
そんな態度なのはどうかと思うとは言えない代わりに小さく睨んでいると


「あれはあれで、自分なりに考えている時に取る態度だからそんな顔してやるなよ。」


いつとなく横にいたダンテが逢夏の肩を手を置きながら言い
コンコンと携帯の画面を指先で叩き、画面の逢夏の視線が向く男子生徒を差した。


「で?…これが初恋の相手ってやつか。」
「うん、そうだけど。」


じーっと、停止されたままのそれを見ていたダンテはいきなり口の端だけで笑う。


「いきなり笑って…どうしたの?」
「いや、なんでその幼馴染は逢夏がそいつの事が好きだって知ってたんだろうなーって気になってな。」


どういうこと?とダンテを見ていると人差し指を立てくるくると空に円を描きはじめた。

まず浮かぶのは逢夏がその幼馴染に相談でもしてたのからという線
でもそれなら、いざ話しかけようとした時に彼女がいるという話はしない。
ということは相談で知ったという推測は消える。

なら、逢夏の友人から聞いたのか?
確かにムードメーカーでクラスの中で溶け込むそいつならそれもできるだろ。
ただそれは逢夏が初恋の悩みを友人に打ち明けるという前提がある。
逢夏の性格上、誰にもこういった悩みを打ち明ける様な感じは見受けられないからこれも除外。

じゃあ次に、逢夏があまりにも周りから分かりやすい態度でそいつを好いていたという線。
これはさっき同様、逢夏の性格上却下せざる負えない。
まぁ、全くそんな素振りを見せないってのは難しいだろうから、相当逢夏の行動を見ていれば分からない事もないだろうがな。

とダンテは自分で立てた2つの仮説を自分で破綻させ、新たに立てた3つ目の仮説は曖昧なまま区切った。


「だから?」
「だから、幼馴染のそいつは逢夏の事が好きだったんじゃないかって事だ。
 逢夏がアイツの事が好きだって分かるほど、お前の事を見てたんじゃないかっていう俺の推測だ。」


どう思う?と結論を述べたダンテはしてやったりな顔できょとんとする逢夏を見た。
しかしその期待を裏切る様に小首を傾げる逢夏。


「ダンテ、多分それは…はずれだと思うよ。」
「なんでだ?」
「だってその幼馴染には彼女がいたから。」


そう、彼女がいると何度も自慢してきた。
その度に良かったねと普通に返していれば面白くないらしく
何を拗ねているのか怒っているのかよく分からない声と表情で色々と言われたからよく覚えてる。

なんでいつも私がそんなことを聞いてやらなければいけないんだか…。
暇じゃない時も多々あったのに…酷いよね?とレディとトリッシュに言うと。

その二人は口元を押さえてテーブルを何度も叩いていた。
特にレディは既に涙目で。


「笑う事ないでしょ。本当に面倒だったんだから。」
「そう言う問題じゃないの。だって逢夏ったら…あー…もう可笑しい!
 しかも面倒って!報われないわねー、その子も!」
「貴女、変な事には敏感なのにこういう事に関しては鈍感なのね。」


そう言ったきりの二人に笑われ続ける逢夏はダンテに助けを求めるものの、
こちらは声を押し殺し、目頭を押さえながらずっと笑っていて…。

どうしようかと悩んでいたところにネロが目の前に来た。
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