水月は紅の記憶に漂う

□海月の話
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朝。
お祈りの為にいつもの神父様の所に行こうとした時だった。
子供がたくさんいるのだから騒がしいのは当たり前だけれど、今日はやけに騒がしい。

近くによると怖がらせてしまうから遠くでその元凶が何か探る様に見ていると…目に映ったものに途端に背筋が凍った。

多くの子供たちの手を次々に渡っているのは…

「それに触るなっ!!」
「うわっ!…な、なんだよ!お前には関係ないだろ!?」
「いいからっ!それに触るな!」

乱暴にはいけないと分かってはいながらもそれどこれではなく引っ手繰る様にして取り上げた小さな置き物。
高価そうな石で造られて、赤い宝石が両目に据えられた鳥の置きものだった。
まるで生きているかのように精巧なそれは持つと心臓を鷲掴みされたような感覚に陥る。

「これ…どうしたんだよ。」
「お前には教えてやら…」
「答えろ!…これは何処にあったんだ!」
「!?。…さっき郵便受けの下に置いてあった。神父様宛の手紙と一緒に…。」

気迫に押された子供が話してくれた事はこれだけ。他には無いかと問い詰めようとしているとそこに神父様はやってくる。

「おはよう、皆。どうしたんだね?朝から少し騒々しくはないかい?」
「神父様っ!…おはようございます。それがっ!」
「神父様!さっきね、僕が持っていこうとした神父様への郵便をクヴァレがいきなり取り上げたんだ!」
「なっ…違います!これは…その。」

心が鷲掴まれる感覚は私しか感じていなかったのだと子供たちの様子から知った今、放っておけばよかったのにと後悔した。
結局こうやってもっと溝は深まっていくだけと分かっていて距離を置いていたのに。
もう少し、ちゃんと様子を見てから行動に起こせばよかったのに。
項垂れていると神父様は隣で声を上げ続ける子供を制するように肩を叩いた後、私の肩を叩いた。

「…落ち着きなさい、二人とも。クヴァレ、それと…手紙もかな?持ってついておいで。」
「はい…。」

『どうして神父様はクヴァレを庇うんだ。』
後ろに子供たちのそんな陰口を聞きながら、神父様の後に着いて行くのは慣れた。
…私は別にいい。けれど、確かにこんなにも私を庇ってくれる神父様がいつ孤児院の者たちの抑えきれない反感を得る様になるか分からない事が…
一番心配で、そう私が言っていると、大丈夫だから。そう言っていつものように私は部屋に通された。
のんびりとした所作で椅子に座ると私の手にもつ石像と手紙を受け取る。

「さて、…どうしてこれをあの子から取り上げたのか、聞いていいかい?」
「…へんな予感がしたんです。」
「予感?どんなだい?」
「わかりません。怖い…なにかを。」

今、神父様の手の中にあるその像を見ていると目があった瞬間にまた恐怖に身が竦む。
怖くて目を逸らせていると今度は手紙を開く音が聞こえた。
少しして、その手紙が私に差しだされる。

「…確かに、良さそうなものではなさそうだ。読んでみなさい。」
「よろしいのですか?」

受け取った手紙の文面は略すればこう。

孤児院の子供の中に一人、好からぬものがまぎれていて
…そのまぎれた子供を貰ってやる…もとい奪いに来ると。

「…君のことを言っている。と皆なら言うだろうね。」
「そうですね…その方がいいのではないでしょうか。」
「そんなわけがあるか。君も大切なこの院の子供なのだよ?」

得体のしれない者に奪わせはしない。
だから、と電話をかけ始めた神父様はコール音が途切れたすぐそこで聞きとれない何かをぼそぼそと口にした。

「どちらへ?」
「静かに。…あぁ、なんでもないんだ…そう、そちらの方で頼みがあるんだ。聞いてくれるかい?」

後に聞いたのはその電話の相手は知り合いの何でも屋を営む女性らしい。
彼女は二つ返事ですぐにここに来てくれると約束してくれた。
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