水月は紅の記憶に漂う

□魔具の話
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自己嫌悪しながら歩いていてまた数分。
到着したのかダンテ、トリッシュが入っていったのは少し…というか大分治安の悪そうな場所に建てられた建物だった。

「ここ?」
「そうよ。ほら、早くいらっしゃい。」
「う…うん。」

手招きをされて…でも何故か凄く入りにくいと思った場所に意を決して足を踏み入れようと…

"あら、お客さん?"
"新入りだ。"
"そう…にしても随分若い子ね、雰囲気も不思議な感じ。"
"奇遇だな、それについては同意見だ。後で調べてお前にも教えてやる。"
"助かるわ、流石は我らがリベリオンお兄さんね。"
"ネヴァン…その呼び方は止めてくれと何度言えばいいんだ?"

そんな男女二人の会話。でもダンテのものでもトリッシュのものでもない声が建物内に響いた。
進めようとした足をまた後ろへ戻して、怖くなって扉の前で立ち止まる。
リベリオン…って誰?ネヴァン…って誰?なんで姿が見えないのに声は聞こえるの?

「「クヴァレ?」」

目の前の二人には慣れた声だったのか特に気にした様子もなく、気にした私が可笑しいかのよう。
でも…頭をよぎるのはこの二人であれば先ほどの会話に少しは反応を示しそうなのにという新しい疑問。

「あの、ここって…他に人がいるの?」
「いや。俺とトリッシュ、後はお前だけだ。」
「でも…リベリオンとネヴァンって…。」

名前を出してそう聞くと…目を数回瞬かせたダンテは背に負ったままのあの剣を目の前にまた持ってきた。

「リベリオンはこいつのことだ。」
「…剣…?」
「あぁ。とりあえず、俺達としてもその話は今すぐにでもしてやりたいんだが…。」

それよりもと指差され渡されたのは荷物と手に持っていた海月の入ったビニール袋。
ダンテと海月を交互に見やりながら、混乱を先に収めたい一心で追いつかない思考のままでいるとため息をつかれた。

「水槽に移してやらなくていいのか?」
「あ…、あーっ!」

海月をダンテに預け、カバンから出した水槽を抱えて教えてもらったキッチンに駆け込んだ。
適当に水を溜めて、感覚で少し温め、人工海水の素をドバドバと入れて作った海水にダンテから海月を受け取って移し部屋の一角を占領させてもらい設置完了。
長く酸素の薄い袋にいた海月を心配して見るが水槽に移動したそれらは居心地よさそうに浮かんでいた。

「よかった…皆、元気みたい。」

そこで思ったんだ。
なんでこの子たちの生命線を適当と感覚で管理してこれたのかって。馬鹿だなぁ…やっぱり幾らでも気付けたんじゃないか。
…さっさと認めてしまえばいいのに。なんで今さらそれに縋りつこうとしているの?
縋りつきたい何かがあるの?

「クヴァレ?」
「え?…あ、ごめんなさい。」

いきなり肩に置かれた手に驚いて振り返ると同じく海月を見ていたらしいダンテと間近くで目が合った。
海月の所為なのか、それともダンテの着ている紅いコートの所為なのか、夢の最後に見た赤に嵌る蒼にその目が似ている様な気が…

「おい…おーい、聞いてるか?」
「…!。うん。」
「ならいい。」

来いと連れて行かれたのはデスクの前。
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