水月は紅の記憶に漂う

□武器の話
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事務所に戻るなり、まるで寝てしまった子供にする様に一階のソファにリベリオンが武器化したままのクヴァレを横たわらせる。
そこに丁度やってきたのはトリッシュでじぃっと武器を見つめた後に合点がいったのか頷いてそっと柄の部分を撫でていたのだが…

「リベリオン。貴方、マスターに似て意地が悪いわ。」
「否定はしない。」
「否定しろ!俺が意地が悪いって認めるな。」

真剣なようでふざけた二人のやりとりに納得がいかないと腕を組んで二人を睨むのだが、取り合わないつもりなのか目が向く先はクヴァレ。
特に斧頭のすぐ下、黒金の柄の部分に集中していた。

「数字持ちなんて分かってたら絶対にでも手に入れたのに。」
「そうするだろうと敢えて言わなかった。」
「数字?」
「そこよ、柄の部分に金字で彫ってあるでしょう?」

言いながらトリッシュが指先でなぞった数字は『1113』。
それをリベリオンは眉根を寄せ見つめていた。

「貴方もありえないって思う?」
「当たり前だろう。」
「当たり前って何がだ?」

ピシリとでも緊張の音がしたかのように二人は固まるとゆっくりとダンテの方を向く。
その目が語るのは

「マスター、それは本気で言ったのか?」
「………〜〜。あぁ、そうだよ!何も知らなくて悪かったな!」
「リベリオンも困った主を持ったものね、同情するわ。」

やれやれと頭を振ったトリッシュは"今回だけ"と前置きをして口を開く。

魔具には稀に数字を持つものが存在し
それは魔具職人が最後に手掛けた魔具である証で、数字はその魔具職人が今までに製作した魔具の数を表す。

「だったらよ。この数字はおかしいと思わない?」
「まぁ、…そう言う事ならな。」

どんなに名の知れた魔具職人であれ、その数は100もいかないと聞いたことがあった。
それに加えて、もしかすれば"1"と刻んだ魔具職人もいるほどに魔具の精製には悪魔の力が要求されるのだともリベリオンが語る中
再び確認するようにトリッシュの指先は金字に触れる。

「刻まれているのは1113。
 これだけの魔具を作ることができる悪魔に心当たりあるかしら?」

即座に否定の意味を込めて首を振ったのはリベリオンで、ダンテはどうでもいいという様に一つの疑問に執心していた。

「で、…その数字持ちになにかあるのか?」
「あるから知っていたら絶対にでも手に入れたのにと言ったのよ。
 この魔具は通常の魔具とは出来が違うの。」

今までに作った魔具の全てを覚えている職人が今までの技術と全霊を込めて最後の魔具を手掛けるのだから
そしてその集大成の数字持ちの出来によって職人自体の評価が下すと慣習としてなっているのだから

「必然的に普通の魔具よりも強い力を持つようになるの。
 まぁ…この子は壊れているのを差し引いて普通の魔具と同じなのかもしれないけれど。」

"壊れる前に見つけていれば"と嘆息したトリッシュがどこから持ってきたのは毛布。
あらぬ方向を見ながら話を聞いていたダンテに押し付け、軽く顎で示したのはようやく人の姿に戻ったクヴァレだった。

「とにかく、今晩は面倒を見て上げること。
 クヴァレのマスターは貴方。
 マスターの不手際でこんなにボロボロになっちゃったんだもの、それくらいしてあげてもいいでしょう?」
「面倒?おいおい…、別にこいつは看病が必要なガキじゃねぇんだから…………。
 分かった、分かったからそんなに睨むな。」

ビシッと音が鳴るほどに勢いよく指を差したトリッシュは嘆息し返したダンテを見なかったふりをして部屋に。
リベリオンも今夜は何故か魔具庫に姿を消し、さっきまでの話声が響く一階は打って変って静かな場所へと変わった。
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