水月は紅の記憶に漂う

□仕事の話
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怒りに体が震えるという初めての体験をしたのはつい一週間と2日前。
掃除をしていて見つけた、請求書や借用書。
子供の小遣いかと思えるような金額から一体何をしたんだと小一時間問い詰めたくなるような0の羅列に思わず顔が引きつったのは記憶に新しい。

こつこつ、と指先ですっかり冷めてしまったピザが入っている箱を叩く音を聞きながら
カバンから上着を取り出して普段着に早着替えをしていると終いにはドンッと大きくデスクをダンテが叩いた。

「で?」
「さっきから言ってるじゃん、お金にルーズなのは嫌いなの。
 だから自分で返せる分は返そうと思っただけ。」

私が勝手にしたことだからしてきた労働の苦労に対しては非難もしないし、文句だって言わない。
だから普通の口調で返してから、着替え終わってすぐにダンテの目の前に白い封筒を置く。
中身は簡単、ピザ代のツケを全額返済完了したとの旨が書かれた領収書とメモだけ。
と、それをダンテの背からの覗き見るようにしていた人物がようやく口を開いた。

「不出来なマスターに仕える魔具として健気に働いてきただけだというのに、さっきから何に目くじらを立てているんだ?」
「………リベリオン、いきなり出てくるな。」
「いきなりではない。大体ここに俺を置いたのはマスターだろう?」

壁を叩いて、そこに背を預けたリベリオンはダンテの手から抜き出した紙を見ながら頻りに頷く。
その頷きに、ダンテの表情はどんどんと曇っていって…そうしてやっぱり予想通り

「お前も俺の魔具なら俺に断りも無しに勝手なことをするな!」

ほら、思った通り。

「別にいいでしょ、ダンテの懐は痛まないわけだし…。」
「そう言う意味で言ってるんじゃない!ガキに肩代わりされる俺の身になってみろって言ってんだ!」
「ダンテの身に?……返済が僅かだけど減って楽になったよ?」
「……お前なぁ…。」

呆れて言い返す気も失せた。
そんな感じのダンテを見て、これでもう良いだろうか?そう思って着替えばかりが詰まった荷物を持って上がろうとした、時だった。

「…おい。」
「なに?」
「なんのバイトしてたんだ。」

ちょっとまだおさまらない不機嫌に据わった目のダンテが指差した私のカバン。
ようは、その荷物に入るだけの着替えだけバイトをかけ持ちしてるんだろう?ピザの配達以外になにをしてるという事だろうか。

「なんのって…、体が丈夫なのが唯一取り柄の私にできるスラム街でのバイトって言ったら…。」

言いかけた瞬間、起こったのは一瞬の出来事。
荷物を持っていた私の手が大きなダンテの手に握られたかと思うと上に捻り上げられて
手の行く先を追って目線を上げると酷く怒ったダンテと目があった。
その途中見えたリベリオンも何故かすごくすごく…怒ってるように見えた。
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