ケが恋しくも、過ごすはハレの日々
□ケーキとスート
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ちょっと熱めにし過ぎちゃった浴槽に溜めたお湯もそろそろ冷め始めたんじゃないかな?ってころ。
お客さんなネロを先に浴室に追いやった後の事。
私はケルとお布団敷き。
「さー、ケル!そっちをちゃんと押さえてるんだよ?」
「ワォン!」
「ん、良い返事!じゃあいくよー。」
干しておいたお布団にシーツをかけるんだけどこれが意外に結構面倒な作業。
でもところがどっこい、ケルとやると楽しい作業だから不思議だよね。
「こんな感じかな?」
「ウ゛ー…。」
「あ、本当だ。そこなんかちょっと変だね。」
なんかワンちゃんのほうがシーツ掛けが上手いなんて変な話だけど
注意された通りその場所を直すとワフッと一つ、OKの声が上がったのでこれにて終了。
そんなところにノックも無しに部屋に入ってきたのは意外な姿のネロ。
「おー、甚平だ!」
「悪いかよ。って…やっぱり。
シーツ掛けぐらいなら出来るからほっときゃよかったのに。」
「そうはいかないんだよ、ネロはお客さんだからね。」
にしても甚平なんてどうしちゃったのさ!すっごく似合ってるよ、紺色!
なんてネロに聞いてみると暑いからってエアコンつけっぱなしで寝てたのを見かねたエヴァさんが買ってきてくれたんだって。
涼しいし着心地がいいから夏の間の夜の普段着化してるそうな。
「…いいなぁ、甚平。私も買おうかな!」
「そろそろ時期外れだろうし、売ってねぇだろ。」
「いやいや、時期外れだから安く売ってるかもしれないでしょ?
あ、私も甚平にしたらネロとお揃いだね!」
じゃあ私も紺色のを選ぼっ。
そうしたら本格的にお揃いだね…って言ったところでネロはさっきよりも更に顔を赤くして
「か…買うな!絶対に買うなよ!?」
「えぇ?なんで?」
「そんなの柚々子と同じなんて嫌だからに決まってんだろ!?」
「なぁっ!ひっどい!」
「酷いのは柚々子の方だろ!…………俺の気も知らないで…。」
「ネロの…?」
「なんでもない!とにかく、…絶対に買うなよな。」
ふんっとそっぽを向いたネロは丁度そこに響いたお母さんの呼びかけに答えてダイニングへ。
取り残された私としては怒られたと言うより、ネロの言ってた"俺の気も…"って言葉が気になって胸に引っかかってた。
傷つけたのかなとか、…本当に拒絶されたのかな、とか。
「しょうがないでしょ、分かんないよ。
言ってくれなきゃ…気持ちなんて分かる訳ないじゃん。」
ネロだけじゃないよ。
紫陽花の時のバージルだって
浜辺の時のダンテだって
あんな事を言った時、今さらあんな事をした時。
聞こえないくらい小さな声で"俺の気にいい加減気付け"…そう言ってたのを聞いたの。
…でも、その時の気持ちなんか全然分かんない。
分かってるけど…分かんない。
「3人がそんなだから私もどうしていいか、何言っていいか…分かんないでしょ。」
言えなかった愚痴を漏らすとそこに手の甲をベロンと舐めてくれたケルベロス。
そっちを見ると優しくて温かい黒い瞳で私を見上げてて
「ワゥン!」
気にするなよ。って言ってくれてるように聞こえた。