ケが恋しくも、過ごすはハレの日々

□双子と講義
2ページ/7ページ

普通の道路から高速に上がって追い越し車線にいる所為か見えるのはレール越しの対向車ばかり。
暇だから次々流れる車を見ながら朝ご飯も食べ終わって、何となくルームミラーで後部座席を見てふと思う事が。

「あれ?ダンテは?」
「向こうに泊りだ。」
「へー…お仕事大変そうだね。」
「そういうものだと分かってて助教になったんだ、特別苦労もしてないはずだろう。」
「…そっかなぁ?」

バージルはダンテにやたら厳しいから無理をさせてても気付いて無さそう。
でもまぁ…ダンテが過労で倒れるなんてことは天と地がひっくり返ってもなさそうだけど。

「もう少しダンテに優しくしてあげた方がいいんじゃない?」
「俺が?あいつに?それはいくらなんでも冗談が過ぎるな。」
「冗談じゃないよ。
 だって、もしバージルがダンテに優しくされたら嬉しくない?」
「嬉しくないどころか気色が悪い。」
「…むぅ。」

この双子は基本仲が悪いんだからよく話をしてる私としては困る。
だってどっちかが笑えばどっちかが不機嫌そうになるし、どっちも笑うかと思えば私が酷い目にあってたりするし…。

「こんなんじゃゼミ生が困りますよ、バージル先生。」
「困ると言われようがこればっかりは慣れてもらうしかない。」

そこでようやく苦笑だけど笑ってくれたバージルは教職員専用の駐車場に車を止めると鍵を私の膝に置いて先に外へ。

「…バージル?」
「10分だけだ。」
「へ?」
「10分の間なら車を好きに使っていい。」

今日最後の5時限目の講義が終わったら鍵を研究室まで持ってこい。
ちょっと強い口調だけど何となく何処か優しい感じのする声で言ってくれたバージルはそのまま講義の準備か研究室へ。

袖を捲って腕時計を見るとその時刻は8:30。
家を出た時刻は7:40だったから…

「そっか…ありがと。」

本当ならもう少しゆっくり来れたはずなのにバージルの視線の先にあった握りしめたままのポーチの中身は化粧品。
流石にマナーとしてファンデとグロスくらいは毎日してたんだけど今日は時間が無かったから、スッピンなんだよね。
とは言え土日に会う時はいつもスッピンだからバージルもダンテもネロも気にしては無いんだろうけど…

こうやって学校とか人目が多い時だけはって心がけてる所にちゃんと気付いてくれてるのがすごく嬉しかった。

それから確かに10分後、ちゃんと車のドアはロックしておいて、キーはすごくすごく大切だからカバンのポケットに入れておいて。
悠々と講義室まで歩いていくと人も集まり始めた丁度いい時間。
もう着いてたネロが席を取っておいてくれたから座る場所にも困ることなくそこに座ってバージルが来るのを待ってたんだけど…

今日という変な日はここから始まったんだ…。

----------------

朝の電気も無く薄暗い廊下をバージルは何故かほぼ駆け足になりながら研究室へ。
そしてまた珍しいことに焦っているのか研究室の鍵になる教員証を他のカードと間違え取り出し、舌打ちを盛大にうったところで中からドアが開けられた。

「バージルが一時限目が講義の日に寝坊なんて珍しいな。」
「煩い、それより準備はどうした。」
「はいはい、言われた通りに準備ができておりますよ教授殿。
 レジュメと受講票はコピー済み、あとはあんたが講義の内容を頭に入れてくれればお終いだ。」
「ならいい。」

短く答えてデスクに向かい様放り投げた紙袋をダンテは受け取り自分の部屋へと戻っていく…前に。

「窓から見えたんだが柚々子も寝坊組だったのか?」
「だったらどうした。」
「いや、別に。
 ただあんたのことだろうから自分のことを棚にあげて柚々子を怒ったりしたんじゃないかって気になってな。
 ま、その様子だと叱ったみたいだな。」

そう言って口元だけで笑ったダンテは受け取った紙袋を揺らした後にドアを閉めた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ