憧憬と見上げる空

□普段の光景
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バサバサ
とカーテンが風に遊ばれる音でネロは目を覚ました。
幅の広いベッドヘッドに置いておいた時計に手だけを伸ばして、布団の中に引きずり込む。
それからなかなか上がらない瞼を無理やり上げ、見てみた針の差す時刻は8:00丁度。
気がつけば隣で寝ていたはずの逢夏は居らず、下階からは静かな生活音が響いていた。

もう少し寝ていても怒られないはず。
もぞもぞとまた寝るために体勢を変えるネロ。
しかしそこに再び瞼を下ろそうとするのを阻害する何かが頭をよぎる。

何か?
何かとはなにか。

「ん〜……、昨日…俺……あ゛。」

思いだしたのは昨日、あの後の光景。
ベッドに転がっていたのに気付いて時計の横に置きなおした『赤い破片の入った小ビン』。

「欠片…っ、逢夏の!」

素早く身体を起こし、時計があったところを見るがそこには何もない。
ベッドヘッドの裏を見るが落ちてもいない。
ガタンガタンと部屋ごとひっくり返しかねないほどの勢いでネロは小ビン捜索にあたり始める。

と、そこにやってきたのは白猫。

「何をしている?」
「なに?探し物してんだ、みてわかんねーかよ!?」

猫の方を振り返り見ることなく、捜索続行状態のネロ。
そんなネロに何の文句もあげない白猫、シャティは首を傾げた。

「何を探しているのだ?」
「ビンだ!こんくらいの大きさで赤…」
「赤い破片が一つ入った小ビンか?」
「それ!…て、なんでお前…。」

説明の為に一度だけちらりと顔を上げ、シャティの先の言い様に再度顔を上げ直したネロに
シャティは何のことはないといったふうに口を開く。

「それなら既に逢夏が察して飲んでしまった。
 今回はあまり副作用もみられなかったから安心しろ。」
「そう、か。…よかった…。」

ほっと胸を撫でおろしたネロはへたりと床に座り込んだ。
するとそれとほぼ同時にドアを開けて入ってきたのは逢夏。

「ネロ?…どしたの?」
「え?あぁ、…いやなんでもない。」
「そう?…それなら、いいんだけど。」

それから逢夏はそっとネロの傍に座り、その手に小さい物を握らせる。
一度握らされたそれ。
ネロが手を広げ見ると、探していた空の小ビンだった。

「昨日の夜の仕返し。
 心配させたくて勝手に飲んじゃいました。」
「仕返しって、お前なぁ…。」

くすくすと小さく笑う逢夏には無理は見られない。
それに更に安堵したネロは特に言い募ることもなく笑みを向け、黒髪に手を伸ばしながら一応ながらに問う。

「それより、身体の具合は?
 なんかおかしいところとかあるか?」
「ううん、今回の欠片は純度が高かったみたいで何も無かったよ。
 ネロ、…毎日ありがとう。」
「…どういたしまして。」

幸せそうに笑み、ネロに寄り添う逢夏。
その逢夏を優しく受け止めたネロは今度は嬉しげに問いかけた。

「今回は何が戻ったんだ?」
「なんだと思う?」
「わかんねぇから聞いたんだろ。」
「そっか。
 それじゃあ、一階のダイニングに来てくれますか?
 久しぶりに、美味しいご飯作れたから。」

逢夏の言葉に、一瞬だけネロは目を白黒。
けれど状況が読み込めた瞬間、ネロが逢夏を抱きしめる…はずだったのだが。

「ごほんっ。」
「「あ。」」
「我を忘れてもらっては困るな。
 食事なのだろう?先に降りているぞ。」

ピン!と尻尾を垂直に立てたシャティがネロと逢夏の前を悠々と通り過ぎていくのだった。
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