憧憬と見上げる空

□シャティの一日
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AM 9:36 猫、買い物
あれから8時になったところで二階が騒がしくなり、様子を見にいけばネロが探し物をしており
そこで謀った通りのタイミングで逢夏が現れ…
まぁ、そこからは割愛しよう。

とにかく。
新婚特有の雰囲気とでもいうのか、ほわほわと第三者(猫?)にとっては居づらい空気に満たされて1時間半も経った頃。

ネロは今度は軽めの仕事へ。
逢夏は買い物へ。
と完全別行動と相なっていた。

「シャティ、辛くない?」
「慣れた。…だが、あんまり揺らしてくれるな。」
「努力してみる。」

猫用のキャリーバッグに収まり、買い物についていくのにも慣れたまるっきしの猫は
ゆっくりとした揺れにくわっと大きく欠伸をする。
しかし抜け目なくメッシュ越しに見た外の景色は目的地のマーケット。
非常に賑わっていて、様々な雑音がやかましく鳴り響いていた。

「今日の夕食はどうするのだ?」
「うーん…、パスタ…とかスープとか…お決まりな感じかな。」
「ふむ、ならすぐに買って帰るぞ。」
「うん。」

なにしろ主のネロが傍にいないのだから長い時間で外を出歩くのはよくない。
そう釘を刺したシャティは体を丸めて、寝る体勢をとる。
しかし聞き耳を立てることは忘れずに、元々垂れた耳を頻りに動かして辺りを警戒していた。

…そこにしばらくして。
ゴトンとキャリーバッグが地面に触れる衝撃が。
シャティはバッグの中で飛び起き、再びメッシュに鼻面をくっつけた。

「逢夏?」

思わず上げた声。
しかし予想に反して逢夏自身はバッグの傍におり、店員の女性と談笑しているだけ。
その様子にほっと胸を撫でおろし、再び楽な体勢をとろうとした時だった。

「ねぇ!!!!このねこちゃんしゃべった!!」
「っ!?」
「え!?」

ぎょろりと覗き穴から見えた好奇心にあふれた緑色の目。
驚きにシャティが見上げると確かに、その目はこちらをじっと見つめ、そしてまた声を上げる。

「ね!!このねこちゃん喋ったよ!!」
「え…ええ!?本当?」
「本当だよ!!ねぇ?ねこちゃん!」

先ほどから戸惑った声を出しているのは逢夏。
しかしそれよりも困惑の声を上げたいのは、声を聞かれてしまった猫本人であったりなかったり…。

だらだらと本来なら流れるはずがない汗が肌を伝う感覚を味わいながら
シャティはぎゅっと口をつむり、逢夏がどうにかしてくれるのを必死に待つ。

「あ、あのね、シャティは普通の猫だからおしゃべりはできな…」
「ちがうもん!しゃべったもん!ねこちゃん、しゃべったもん!!」
「え…あ、…うーん…そ、そうなの?シャティ?」

逢夏の疑問の声に無意識にシャティの尻尾がブワッと膨らんだ。
それと同時に緊張でゆるゆるとつむっていた口が開く。
…と、その瞬間。

「にゃ〜ん?」
「あれ?」
「ほら、シャティは知らないよって。」
「えぇ〜!でもさっきちゃんと…。」
「ふにゃ〜!」

トドメの一撃が効いたのか、子供は項垂れて逢夏から離れていく。
そんな子供に再びほっとして先ほどよりも大きいため息をついたシャティは
へらへらとぎこちなく笑いながら更にぎこちなく食材を受け取る逢夏を見ていた。
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