ようこそ、悪魔の悪魔による悪魔の為の悪魔的なボードゲームの世界へ

□ダイススロー 3回目
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頭に上がった血も下がったのかダンテは大人しくソファの端に座っていた。
それは偏にまさか自分が女性に手をあげようとするとはと彼自身が信じ難かったからで…

「…なんか気味が悪くなる位大人しいけど、大丈夫かよ?」
「きっと、女性を殴りそうになるまで悪魔に追い詰められたのが嫌だったんだと思います。」
「ダンテ、プライドが高いもんね。」

涙の痕が痛々しいディーヴァの頬を新しい濡れタオルで拭いながら逢夏は苦笑いを浮かべた。
そうしてタオルを握る方とは逆の手を広げる。
その手にはずっと握りっぱなしだった6面ダイス。
これを見て、今さら気付いたことがあった。

「あのね、ディーヴァちゃん。
 このダイスね…6面ダイスなのに数字が1〜3までしかないの。
 …残り30マス位…最低でも10回は振らなきゃいけない。
 辛いことや苦しいこと、痛いこと、怖いことが起きるマスに当たる確率はとても高いと思う。
 でも…ディーヴァちゃん。
 私、ダイス…振るね?」
「……はい。」

一つ断りを入れた逢夏はボードの方を向くと

「辛くて、苦しいマスが出てきませんように。」

願いを口にしながら、ボードの上へとゆっくりと放る。
ころころと転がり出た目は『2』。
それにコマはスキップでもしているのではないだろうかと思ってしまうほどの軽やかな跳躍を見せ、2マス進んだところで止まった。

今回3度目、ドクロが吐き出した羊皮紙にはこうあった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

童うわぉセカィへゴ招タぃ
ゃくうォ演ジぃて、おまぃらがかくェヌぃ、ハピィえンどぅ目ザせ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「童話の世界へご招待。
 役を演じてお前らが欠けないハッピーエンドを目指せ。」

読み上げたと同時
"ダぃホぉん"
と書かれただけ書かれたまっさらな冊子が一冊、どこからともなく落ちてくる。

拾い上げたディーヴァがダンテと確認をしてみるが、何の変哲もない、羊皮紙を冊子状にまとめただけのものだった。

「童話ぁ?
 いきなり何なんだよ、これ。」
「…安全、そう?」
「いや、本当は怖いあの童話でした。
 なんてこともあり得るし、一概に安全とは…な。」
「とりあえず、めくってみようか?」

4人とも警戒心をむき出しにして、ディーヴァの白く細い指が羊皮紙をめくるのを待つ。
…すると

「真っ白…?
 …!?、何か浮かび上がってきた!」

ディーヴァの驚きの声通り、浮かびあがってきた文字列。
その文字列はこうあった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ァかズゥくぃン

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「赤ずきん。」
「……おい、マジで本当は怖いの方じゃないだろうな?」
「ネロ、そんなこと言わないの。
 恐くなるだけだよ?」
「さっきからネロが言ってる本当は怖いってなんだよ?」
「えっと、確か…赤ずきんだと
 赤ずきんが騙されておばあさんの血と肉を、ワインと干し肉として食べるシーンがあるんだっけ?」
「へぇ…確かにそれは怖いってか…エグイな。」

ディーヴァの話にダンテは隠すことも無く嫌そうな顔をする。
それもそうである。
『役を演じて』ハッピーエンドを目指せ。
赤ずきんは女の子…とすると、赤ずきんを演じるのはディーヴァか逢夏。
ディーヴァがその役を演じることになると…と思わずにはいられなかった。
するとそこに

「あと、赤ずきんが着ている服を一枚一枚脱いでは暖炉に放り込むっていうシーンがあるんだよね。」

何気ない逢夏の補足が、悲しくも男性2人の心に突き刺さった。

「「はぁ!?」」
「…へ?私、なんか変なこといった?」
「変なことも何も!
 何を暖炉に放り込むって!?
 どういうことなんだよ!?」
「どういうことって…、ねぇ…ネロ?
 って、ネロまでそんなに驚かなくても…。」

逢夏の説明によるとおばあさんを食べて変装した狼が赤ずきんをベッドに呼ぶ際、服を脱げと要求するとかなんとか…。

そこまでくると男性陣の頭にはもうこれしかないのである。

『これはもしや、まさかの悪魔が齎したチャンスではなかろうか?』
…と。

そして同時に思うのである。
狼役の席はただ一つ。
となると、今こうして仲間でいるはずのあいつは…?

「邪魔すんなよ、くそガキ!」
「んなに歳が離れてねぇって言ってたのはテメェだろ!?
 テメェこそ俺の邪魔してんなよな!!」

激しく言い合う2人は白み始める辺りなど目に入らぬ様子。
そんな2人をよそにそっとディーヴァの背後に忍び寄った逢夏は仄かに顔を赤らめつつ、優しくディーヴァの耳を手で塞いだ。

ただ、完全に塞ぐ前に

「なにかあったら、…その。
 ごめんね?」
「…ごめんねって、え?
 あの、一体なにが…。」
「…内緒。」

と、純粋なディーヴァの眼差しに気まずそうに目を逸らすのだった。
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