憧憬と見上げる空
□疎むものを失う夜
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体調が安定したからとネロはいつも通り依頼へ。
もちろん、私はまだ万全ではない体を思って休むように頼んだ。
だけど…
「困ってる人がいるんだ、無視できないだろ?」
「そう、だけど…。
だったらダンテやレディにっ…。」
「いつまでもあいつらに甘えてられない。
逢夏、心配してくれてありがとな。」
私の髪を撫で、ネロは出かけてしまう。
昔の主、黒い鎖の悪魔が私の前に現れたあの日と似た、胸のざわつきを抱えた私を残して。
このざわつきは悪い予感の察知によるもの。
所謂、虫の知らせと呼ばれる感覚。
その感覚の根本を何と呼ぶのか、今は全く理解できないけれど、でも…いつか思い出すはずの繊細な感覚。
それはベッドに横たわって数時間した今も止まらない。
ずっとずっと胸の中が落ち着いてくれない。
ずっと、今夜何かが起こると叫び続けてた。
私と白猫しかいない寂しい今夜に、何かが起きると。
『何でもいい。
不安に思う事があったらすぐに俺かシャティに言うこと。』
頭に浮かんだネロの言葉に突き動かされ、シャティのところへとベッドを抜け出す。
電気を付ければいいのにすっかり気が動転していたのか、私はそれすら出来ずに暗い廊下を壁にもたれながら足を進めてた。
そこに
「きゃっ!………な、なに?」
ガタン!と玄関から激しくドアを開ける音と
ゴトン…と静かに重い物が落ちる音が今まさに降りようとしていた階下から聞こえた。
この音の正体が今回の悪い予感の根源。
察することは容易く、対応することは難しかった。
一瞬動けなくなって
でも、このままこうしているわけにはいかなくて
階段の一段一段を体を引き摺って降り、階下を覗き見る。
すると視線の先、玄関ドアのすぐそこに
錆びた鉄のような匂いを纏って、黒く染まった服を着た
「ネ、ロ…?
ネロ!!?」
ネロが、倒れていた。
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あの後、すぐに駆けつけてくれたシャティがネロをベッドまで運んでくれた。
手当をしようと見た傷はどれも酷く深いものばかり。
しかも、今回はそれだけではなく…。
「どうして?
…どうして、治ってくれないの?」
いつもなら治る兆しがあるはずが
今はただ元々白い肌が更に青白く、ネロは衰弱していく一方。
この状況のまま、放って置いた場合の行きつく先はたった一つ。
"死"。
気付いた途端、混乱した。
ネロを失いたくなかったから。
…でも、冷静になる私もいた。
やらなきゃいけないことは、……分かっていたから。
「今、…助けるから。」
引き出しから取り出したペーパーナイフ。
それを左手に持ち、テーブルの上に広げた右手の甲に先を向ける。
助けること以外何も考えてなかった。
とにかく、今のネロを助けるには私の血が大量に必要なんだってことくらいしか考えてなかった。
だけど
一瞬だけ無意識に大きく息を飲んだ私はきっと…
こうするべきではなかったと知ってたんだ。