白銀の想
□白銀の想 2
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ボロボロの革の表紙を捲って見れば、そこには見間違えるはずのないスパーダの字で綴られたいわゆる日記と呼ばれるものだった。
「…はずれか?何にも気になる所は見当たらねぇが…。」
ぱらぱらっと軽く読み流すも全く見当もつかないまま、これではもっていても仕方がないので投げて返した。
受け取ったバージルはバージルで大仰にため息をついてみせると
「…お前は何のためにこれを探したか、それも覚えてないのか?」
明らかに馬鹿にしたような口調に腹は立つが、本当に思い出せないので『さぁ?』とだけ返す。
その返答にバージルは視線を逸らすと今度はネロの方を見、ぶっきらぼうに手を伸ばした。
「小僧、切れ端はどこにやった。」
さっさとよこせと言わんばかりに出される手にイラついたネロはコートのポケットから出した一枚の紙を雑に渡し
切れ端を手に入れたバージルはもくもくと手帳をめくり符合する箇所を探し始める。
弟の俺から見てもあんまりな態度に不満どころか不機嫌になって床を蹴るネロ。
だが今バージルに噛みついても何もならないと分かっているのかそれに止まるところを見ると
"こいつのほうが随分と大人だ"
などと頭の端で呟いて、とりあえず慰めにもならない慰めの言葉をかけることにした。
「悪いな。あいつはいっつもあんなんだから、気にすんな。」
「…別にあんたが言うことじゃねぇだろ。」
返ってきた言葉にやはりバージルより大人だと結論付けたのは内緒の話。
そんな脳内会議の結果『ネロよりも子供』とダンテの中で認定されたバージルの手が
とあるページから動かなくなっているのが置いてきぼりを喰らっていた二人の視界の隅にうつった。
「『あれ』がようやく見つかったのか?おにーちゃん。」
問い掛けに頷きだけで返され、もう一度受け取った手記。
書かれていたのはやはりというか、もちろんのこと『あれ』の話だった。
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示したページは俺とこの愚弟ダンテが『あれ』に会った時のことが綴られたページ。
そして示すと同時に渡したのはこの手記を探す羽目とした原因である『手記の切れ端』。
元々破り取られ、無理やり戻されたものだったそれは教団本部、ひいてはこの書庫が倒壊した際、そのはずみで飛んできた。
何の変哲もない古い紙かと思えば見間違えることのないスパーダの筆跡で片面には文、もう片面には走り書きの地図が記されていた。
書かれていた文は
『あれの封印場所を城の地下、霊石を封印に用いることとする。』
そのただ一行だけ。
父の字で書かれる『あれ』という文字は自ずとあの日のことを思い返させた。
あの日以来、何物も『あれ』の恐怖に敵わず他の何物にも対して恐怖することを忘れるほどだったのだから。
手記の劣化は激しく、ダンテもそしてそれを覗き見るネロすらも読み解くのに苦労しているようで
このままでは話の本題に進むのにいつになるか分かったものではなく、不本意だが要約して説明することにした。
まず『あれ』の名はあの時名乗った様にレインと言い、母が名づけたものだという。
紛れもなく俺達と1つ違い妹…なのだが。
レインは俺やダンテと違って祝福されないものを持って生まれた。
それはあまりに強すぎる悪魔としての力。
その象徴があの2本の角。
確かに俺もダンテも悪魔の力をもって生まれたがスパーダが危機感を抱くほどではなく、また自分たちで制御できる範囲内の力であった。
だがレインは違った。
半魔の身でありながら強大な力を持ってしまっていた。
幼いその身では制御しきれずいつ暴走するかも分からない力。
加減も知らない、止めていられない力は愛する家族に牙をむく。
それを危惧したスパーダはエヴァそして俺達からレインの記憶を奪い、
レインを永遠に封じる場所が決まるまであの『開かずの部屋』を仮の封印場所として彼女ごと力を封じていた。
とは言え、家の一室を仮にも封印場所としてしまったほど本来その封印はスパーダにとって決して焦るものではなかったようだった。
…俺たちがあの部屋に入るまでは。