白銀の想

□白銀の想 8
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閉じたドア、傍の窓から差し込んだオレンジがかった光は見ていると苦しさがこみ上げてきてすぐに視線を逸らした。

「ネロは…お仕事。」

自分に言い聞かせるように呟くとレインは俯き、床だけを見てあちこち掃除を始める。

一人の時は何かしてないと落ち着かない。
胸がざわざわして気を紛らわせないと無意識に涙が溢れ止まらなくなる。
最初こそは誰かについて悪魔退治に出ていたもののその度に悪魔達は眼の色を変えて自分を集中的に襲い始め
その事態に何かを危惧した兄達に事務所から出てはいけないと言い渡されてから、ほとんど毎日一人だった。
それに伴って誰も来ない事務所だとは言え、夜は特に危険だと力の解放も許された。

でも

「もう、絶対破らない。」

本当に危険が迫るその時まで力を解放しないと決めていた。
それが隙を生み、怪我をしようとそれからでも力を解放してしまえばすぐに治る。

だからなのか…怪我をすることよりも今は力を使う事の方が怖かった。
約束を既に二回破った。
それが誰にも責められない理由があってのことと分かっていたけれど
…力を行使すればあんなにも簡単に人が傷つくと今まで知らなくて

「もう…誰も傷つけない。」

自分が傷ついたとしてももう…力を振るって誰も傷つけない。
そう約束を思い出し、自分を戒めた。

しかし、これがいけなかったのだと…
そう気付くのは決意して数分も経たなかった今。

コンコン...と
扉がノックされる音が聞こえた。

偶に依頼主が直接ここにくると兄が言っていたがそれだろうかと思い扉に駆け寄り
小さく扉を開けるとそこには見知らぬ男性。

誰か知らないその人は目が合うや否や少し気味の悪い笑みを浮かべた。

「あの…今は兄達は出ていて依頼は受けられないので、もう一度お越しいただくか、お電話ください。」

この人は嫌だ、…怖い。
訴える直感に従って断りを入れ、扉を閉めようとする
…が、開けた扉の隙間に足を挟まれ阻止される。

「私は君に用があるんだ。」
「え?」

その瞬間、ドアの隙間から素早く差しこまれた何かを当てられた首に痛みが走った。
最後、鈍痛の中遠のく意識で見たのは暗い微笑みを向けてくる何かをしたその人。

そのままレインは力を解放する暇もなく意識を手放した。

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「大したこと無いじゃねーか。」

他に回せばよかったと早く終わった依頼の内容に不満をもらしながら帰るネロ。

「あら、貴方も仕事終わったの?」

と同じく仕事が終わり帰ろうとしていたトリッシュに会う。
その後ろにはバージルもダンテもいた。

「なんだよ。あんた達も終わったのか。」
「あぁ、奇妙なほどにタイミングが合うもんだな。」

久しぶりにまともな会話を始めるダンテとネロの二人、しかしバージルは眉をひそめ少し声を荒げる。

「話なら歩きながらにでもしろ。
 レインを長く一人にさせたくはない。」

相当苛立っているバージルはそう言う間にも先を足早に進み、その言うとおりだと頷いたダンテは肩をすくめると歩きはじめる。
その二人に競歩に近い速度でついていきながらネロはここ最近から気になっていたことをダンテに問う。

「なぁ、おっさん達って俺たちが来る前もこんなに忙しかったのか?」

俺やレインがここに来たばかりの平穏な時のほうがイレギュラーだったのか、これが普段なのかととても疑問に思っていたのだが
それは疑問を口にした瞬間のダンテの表情で即刻否定された。

「そんなわけあるか。今まで週休6日が普通だった。」
「こんなに仕事がずっとあったら流石にこっちもダウンしてるわ。今が異常なの。」

ダンテが返した後、愚痴っぽくトリッシュも付け加えて言う。

「明らかに今回はおかしい。
 何か裏がありそうだが、その痕跡も全く見当たらん。」

苛立たしさが治まらないバージルが一番の理由をようやく声にして出し
それにはダンテがいつもの飄々とした態度もなく答えた。

「今のはレインが依頼に出てから、しかもレインを外に出すと悪魔が騒ぐ。
 あいつが関係しているのは間違えないだろうが…。」
「それが分かってるのにあの子を一人残すなんて平気なの?…何かあったら…。」
「その何かの為にレインには力の解放許可を出してるんだろ。なら、自分の身くらいは守ってるさ。」

そう言ったネロに対して三人は冷ややか目で以て返答を返した。
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