Long

□REN 01
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――起立、礼、着席

「あー、今日のHRは新しくこのクラスに入ることになった転校生を紹介するぞー入ってこい」
ガラッ―
おお、と誰かが声を上げた

カッカッカと先生が黒板にチョークで名前を書く
「―三橋廉さんだ。三橋さんは病気で声が出ないから色々手助けするように。席は窓際の一番後ろの空いてる席に座ってくれ。」
―じゃあ左の列から自己紹介していけー

ペコリと頭を下げ何も言わないその人はおよそ日本人であるならば黒々しいであろう髪が長く柔らかい亜麻色で、肌は透き通るように白く触れたら壊れそうな、そんな儚げな雰囲気を醸し出していた。


*****************
喋れないということもあってみんなどうやって声をかけたらいいのかわからずにいたが、転校生は一人でも平気な様子で
まるでそこだけ時間の流れが違うような違和感があった。

一度女子が何人かで席を囲んで三橋と会話をしていたが(といっても三橋は筆談だが)
その集団はそれっきりだった

(やっぱりちょっと絡みづらいよね)
そんな会話が聞こえてくる

ちょっと変わったやつなんだろうなーと思ったが田島は休み時間になるとすぐに寝てしまうためその転校生と話すことはなかった。


それからも相変わらず転校生はクラスに馴染めないでいた

クラスの女子は最初のうちは頑張って話し掛けたりしていたが、やがて興味がなくなったのか自ら声をかけることはなくなった。


―転校生が来てから一週間後、クラスの席替えがあって、田島はその子の席の後ろに当たった。

(なんか良い匂いするなー)
机にべたーっとくっついて睡眠体勢をとっていると
窓から入ってくる風と共に流れてくる匂いに安心感を抱き
いつの間にか眠っていた


優しくトントンと肩を叩かれ良い心地で寝ていると
「コラ起きんか田島」
と頭をはたかれた。
「三橋もそんなに優しく叩いてもやつは起きないぞ」
気がつくとプリントを後ろに配っていたようで俺のところで止めていた。
三橋は困ったように笑いプリントを田島に送った。


それからというもの田島は野球部の疲れもあってか授業中は赤点を免れるべく何とか耐えていたが、
休み時間になると良い匂いに包まれてグッスリ熟睡してしまい、
授業が始まる度に田島を起こすのが前の席の三橋の日課になっていた。

直接話す訳ではないが授業が終わるのと同時に睡眠に入り良い香りに包まれリラックスして、授業が始まる号令の時に三橋に腕を優しく叩かれ気持ちよく目を覚ます。
田島にはそれが最近の小さな楽しみだった。


あるとき授業中に足元にシャーペンが転がってきて
前の席ではどこにおちたんだろうと三橋がキョロキョロ足元を見ていた


「落ちたぞー」
と足元のシャーペンを拾って渡すと、三橋は目をおおきくして受け取り
スケッチブックに『ありがとう』
と書いて恥ずかしそうに目だけを覗かして田島に向けた

「どーいたしまして」
とにっこり笑うとなぜかビクッ驚いた三橋も不器用に笑って返す

「そこー後ろ向くなー」
と先生に注意され三橋は慌てて前を向いた―


―三橋が笑ったとき胸が変な感じがした。
(なんだろう?)


なんだか胸がもやもやしてしょうがなくて
ぎゅーってなった。



今日は晴天、野球日和。
 

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