My treasure

□だって、1番。
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「ラス ト いきますっ!」

「お願いします!!」


三橋から放たれたボールを、キンっ
と爽快な音を立てて打ち返した西広


今は打撃練習中である。


「全員打ち終わったね!じゃあネッ
ト片付けたら休憩!15分後に大縄飛
びから始めるよ!」

「あっしたー!!」


モモカンの合図でテキパキとネット
を片付け、散らばったボールは1つ
残らずカゴに収まった。

打撃投手を勤めた沖と三橋は、一足
先に休憩に入る。


「みはしー、ホイ」

「あ、あり がと…」


沖から渡された麦茶を受け取り、一
気に飲み干す三橋。
その後、ワラワラとベンチに戻り体
を休める部員達。


「よっ、お疲れー」


そんな2人の横に、西広がやって来
た。


「おつかれー」

「おつ かれ…」


口々に労いの言葉を掛け合う。
しかし西広は三橋に対し、なぜか元
気が足りない様な違和感を覚えた。


「三橋調子悪い?」

「うぇっ?ぜ、全 然…」


プルプルと首を横に振る三橋。
確かに普段からかいがいしく阿部に
世話を焼かれているおかげで、先程
までの三橋の投球も調子がいいくら
いだった。

それならば、と今度は沖が問い掛け
る。


「なんか悩み事?」


投手とは総じてデリケートな生き物
である。
言葉は拙いものの、思考が即座に顔
面に表れる三橋に元気が無いなら、
何か思い悩んでいる事があるのだろ
う。

沖の問い掛けに、うぐ、と言葉を詰
まらせた三橋。

図星か。


「なんかあった?」

「あんまそーゆうの溜め込まない方
がいいよ」


優しく続きを促す沖と西広。
だが、三橋は一向に口を割らない。
話したくない事なのだろうか。
いや、三橋の事だからきっと言った
ら嫌われる、とか考えているのだろ
う。

兄心の芽生えた沖と西広は、何とか
解決してやらねばという使命感に駆
られた。

しかし、言葉を待つ事自体は苦では
ない2人だが、休憩終了のタイムリ
ミットが迫っている。

2人は最終手段を取る事にした。


「…阿部に見つかったら怒られるよ
?」


悩みを隠している事が怒りの対象に
なる訳はないが、気の短い阿部の事
だ。
三橋が何か思い悩んでいる事を知っ
たら、聞き出す前に怒声を浴びせる
だろう。

何で早く言わねェ、とか。

そうなる前に、多少強引にでも聞き
出さないと後々トラブルに成り兼ね
ない。

阿部には申し訳ないが、彼の名前は
効果覿面だった。
案の定、ビクゥゥと肩を震わせた三
橋は、恐る恐る口を開いた。


「……ぁ…の、オレ…打たれ…」


ゴニョゴニョと聞き取りづらいが、
それでも何とか言葉を紡ぐ三橋。


「ダゲ キ も…西 広君…」

「え、オレ?」


悩みの種がまさか自分にあるとは思
いも寄らなかった西広は、思わず声
を上げた。


「みん な、オ レの球…」


沖はピンと来た。




「打撃投手でも打たれるのヤなの?





沖の言葉に、三橋はコクリと小さく
頷いた。

呆れた投球中毒者だ。
まさかココまでとは。

始めは初心者だった西広も、三橋の
球を楽々打てる様になって来たのが
嫌だと。
我等のエースはそう言うのだ。


「オレ、手 抜いて ない…のに」


三橋はどこまで負けず嫌いなのだ。
というか、打撃投手は打ってもらわ
なきゃ練習にならない。
なのにチームメイトにすら打たれる
のが嫌だと申すこのヒヨコ頭。


さて、どうしたものか。


顔を見合わせる沖と西広。
2人は目が合うと同時に、クスリと
笑った。

そして、先に口を開いたのは西広だ





「勝負してんだね、いつも」




それはそれは柔らかい笑みで。




「勝つんだもんね」




沖もふわりと笑う。




「みんなが簡単に打てる様な球じゃ
、上には行けないもんね」




三橋は顔を上げた。

言葉の意味が解らない。
だが、2人が醸し出す柔らかい空気
が心地好かった。




「でもさ、三橋」


「三橋の球が打てなかったら、強豪
チームの球が打てる訳ないんだよ」




相変わらずニコニコと笑う沖と西広





「オレ明日は全部打つから!」




西広はそう言って立ち上がった。
力がみなぎってしまった様だ。




「簡単に打たせないもんね!」




夏大以降、本格的にピッチングを始
めた沖も負けじと立ち上がる。

眼前のやり取りを呆けた顔で眺めて
いると、ニッ、と笑った2人が三橋
の手を引いた。




「ほら、休憩終わりっ」


「勝ちに行くんでしょ?」




三橋はまだ、2人の笑顔の意味を解
っていない。

だが、笑顔にいちいち理由を付ける
など野暮だ。
そこに多くの言葉は必要なかった。

だから釣られて、三橋も笑った。




誰にも打たれたくない。

それが例え、敬愛するチームメイト
でも。


三橋の強固な意思は、更にチームを
強くした。






それでこそエースだ。




end


********************


過去に天然プラネタリウム桐島様に
3434hitのキリリクで書いていただいた
西広、沖、三橋の小説であります!

この3人ほんわかしてていいっ!!

なにこの3人可愛いっ!!

素敵すぎるでしょう!!

リアルにこんな会話してそうなところが
本当にすごいです。

この度はお持ち帰りおkしてくださって
本当にありがとうございました!!



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