Ss

□無題
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阿部が電車からプラットホームに降り立つと寒い風が吹いてきて
暖房の効いた電車の中の暖かさが恋しくなった



「うーさっぶ」



駅を出ると風を遮るものはなくよりいっそうの寒さが阿部を襲ってくる


不機嫌な天気の空に吐く息は白く

見ると雪がちらほら降っていた


辺りはもう暗く
シンと痛いぐらいに静まり返っている




そういえばさっきケータイのバイブが鳴っていた気がする



『今日何時ぐらいに帰りますか?』

ケータイを開くと家にいる三橋からだった

一緒に住んでいてケータイで連絡することが滅多にないためか
たまにメールをすると何故か敬語だった


『今駅出たところだからもうすぐ帰る』


『牛乳買ってきてくれませんか?』


『りょーかい』


パタンとケータイを閉じる

返信するためにポケットから出した手が痛かった




人気のない道路をしばらく歩くうちに
だんだん寒さに慣れてきて
澄んだ冷たい空気が心地好い



家から程近いコンビニの前店に入ると暖かく
冷え切った鼻がじんじんする


言われてみれば冷蔵庫の中に牛乳がなかった気がする



――あいつココア好きだからな


いつも三橋の方が帰りが早いが
家に帰るとたいていこたつに入ってココアを飲んでいる


その光景が冬らしく
温かい気持ちになる

一度ココアなんてよく飲めるよなー
なんて言ったら

ココアの良さを力説された時には驚いた


―どんだけ好きなんだよ


思わず思い出し笑いをすると
品出しをしている店員と目があって気まずい空気が流れる


ごまかすように皆から険しいと言われる顔をして



ビールに目が止まり
自分の分と当たり前のように三橋の分のビールもカゴに入れる


ついでにビールにはおでんだよなあと
おっさんくさいことを思いつつ
レジ横のおでんを何個か選んで器に寄せる


(大根好きなんだよなあ―)

出汁が染み込んだやつ



ビールとおでんとそれから牛乳


レジを済ませて外にでると
暖かさに慣れてしまったせいで余計に寒さが際立った



速歩きで家に向かう



ココアなんて可愛らしいもの飲んでいるくせに
意外に酒とつまみが好きな三橋は
この土産を見て喜ぶだろうな




「ただいま」



 

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