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□ごめん、ありがとう
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一周年記念

運狙+看

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伝えたい気持ちは何時だって君に上手く伝わらない



ごめん、ありがとう



「………」

「………」

誰も通らない廊下の片隅。そこから冷え冷えとした空気が流れ、辺りを包み込んでいた。

備え付けられた座り心地が良いとはけして言えないソファー。それに腰掛けていたカンシュコフは、自分を挟んで無言の睨み合いを続ける友人二人に頭を抱えていた。

誰でもいいこの重く淀んだ空気を洗浄してくれ。


「あのよ…」

「……」

「……」

耐えられずに声を上げれば、オレを挟んで左右に座っているコプチェフとボリスが同じタイミングでオレを見る。視線が異常に鋭いのは気の所為なのか。…いや、たぶん気の所為じゃない。痛い。痛すぎる。

せめて、オレを挟まないでこの二人が座ってくれていたならばオレの世界は違っただろう。そう、かなり。

「・・・おい、コプチェフ。カンシュコフが困ってんだろ。いい加減機嫌直せよ」

オレの左側に座るボリスがオレを挟んで右側に座るコプチェフに呆れたような声を投げる。オレを困らせてるのはお前もなんだがなボリス。それと、困っているのはボリスであってオレではない。と今すぐ突っ込んでやりたい気分だが今は心の中に仕舞っておこう。
そうしないと話が一生、先に進まない気がする。



「俺は、機嫌なんて悪くないよ。機嫌が悪いのはボリスの方じゃないの?」

しばらく黙っていたコプチェフはやっと口を開いたかと思うと、ボリスの言葉をバッサリ切り捨てた上、切り返した。

二人が睨み合い、また静寂が辺りを包む。




何故二人がこうなったのか。原因は少なからずオレにあった。

冷戦の幕開けになったきっかけ。それは今も赤くなっているボリスの右頬だった。
これは、因縁を付けてきたこの所轄の奴からオレを庇って殴られた跡だ。



同じ民警とはいえ犯罪者を捕まえたり交通整備をする所謂"お巡りさん"とオレたち監獄で働く看守たちは頗る仲が悪かった。

仲が悪いといっても一方的なものであり、それは恐れからくる自己防衛のようなものだろう。

監獄で働くものは一般的に"看守"と呼ばれている。だが蓋を開ければそれは、犯罪者への懲罰を許され処刑する権利を兼ね備えた"獄卒"と変わらない。

だからこそ正義感の塊である彼等にはおきに召さないらしい。中でもこの所轄に友人を持つオレは色物らしく、ここを訪れる度に誰かしら絡んできた。


この日もそうだった。護送の手続きを終え、少しだけ余った時間を腐れ縁の友人のために使おうと歩き出した時それは起こった。


向こう側から歩いてきていた二人組が、わざとオレにぶつかってきたのだ。なのにソイツらときたらまるでオレがぶつかったかのように因縁をつけてきた。


これには些か腹が立ち、オレが口を返すと今度は『生意気だ』と殴りかかってきたのだ。


咄嗟のことにただ目を見開いた。次の瞬間、殴られる!!と思い、目を強く瞑った。


だが、いつまでたってもくるはずの衝撃は来ない。


恐る恐る目を開ければオレの目の前には見覚えのある姿。それに少しずつ視線をあげれば、いつもの仏頂面。
今から会いに行こうと思っていた腐れ縁の友人がいた。

オレの方を振り向いたボリスの右頬は赤くなっており、いつも目深に被っているはずの帽子は床に投げ出されていた。
殴られた。オレを庇って。いろんな意味で泣きたくなった。


ボリスの話では巡回を終えたて部署へ戻ろうとしたところでオレの姿を見かけたらしい。しかし、声をかけようとした時、例の二人組が因縁をつけてきたのだ。その二人組は所轄内でも評判が悪く、ましてや仲の悪い監獄組の看守となれば何をするかわからない。
それで慌てて駆けつけてくれたという訳だ。


だが、ソイツらはボリスを殴ったことでヤバいと思ったのか、どこかの下っ端のような捨て台詞を吐き捨てると猛スピードで走り去っていったのだ。


で、とりあえず殴られた所を冷やそうと廊下を歩いてところ、車を戻しに行っていたコプチェフが帰ってきてしまった次第だ。



それからは、コプチェフの問い掛けとボリスの黙秘がひたすら延々と続き、今に至るわけだ。


「ねぇ、ボリス。誰がやったの」

「お前には関係ない」

「誰」

「別に、誰でもいいだろ」

「誰」

「しつけぇ」

…終わることなど知らない質疑応答が繰り返され、答えが返ってこない度にコプチェフの表情が険しくなっていく。正直怖い。


「もういい」

ガタン
右側から椅子のずれる音。見やればコプチェフが乱暴に立ち上がった。

「お、おい。コプチェフ…」


「俺だけが必死になって心配して馬鹿みたい」

それだけ言い残してコプチェフは足早に何処かへ歩き出してしまった。


「ボリス」

オレは、だんまりを決め込むボリスを呼んだ。

「なんだ」

「あんまり、アイツに心配かけるなよ」

「知ったことか」

吐き出される言葉はあくまで辛辣で、逆に申し訳なさが溢れてくる。あの時がなければこんな事にはならなかった。

「なぁ、ボリス。コプチェフのところに行こう」

「行く必要はねぇ」

「だけど、アイツも心配してるしよ」

「誰も、心配してくれなんて頼んでねぇよ」

「…ボリス」













「解った。行けばいいんだろ、行けば。でも俺は悪くないから謝んねぇぞ」


じっと見つめるカンシュコフに根負けしたのか、ボリスは大仰に溜め息をつき肩を竦めた。

そんなボリスを見てカンシュコフは笑みを零す。


この悪友はホント素直じゃない。昔から伝えたいことを上手く言えず、こうして悪態ばかりつく。


「ホント素直じゃねぇな、ボリスは」


カンシュコフは嫌がるボリスの腕を引っ張り上げオレはコプチェフが向かったであろう方向へ歩き出す。


「ちゃんとコプに謝るんだぞ、ボリス」

ノロノロ歩くボリスの背を押しながら、カンシュコフは諭すように言い聞かせる。


「だから、俺は悪くなねぇから謝んねぇって!なんでアイツに謝るん「お、いたいた。おーい、コプチェフ!!ボリスが心配かけてごめんだって」


「カンシュてめぇ!誰もそんなこと言ってねぇだろうが!!」



廊下に響く怒鳴り声。でも、それが照れ隠しだってオレらにはわかってるから。

ほら、ちゃんと聴こえてる。


ごめん、ありがとうって声が。









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一周年記念第2弾。看守目線で運狙でした。うん、運狙じゃないしコプチェフ出番なくてすいません詐欺ですね。

でも、コプも看守もボリスのことよくわかってると思うんだ。
なにせ腐れ縁ですから。てか、看守マジおかんww

皆さんとの縁もコイツらの様に永く続いていくことを祈って!




2011.12.11


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