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□Chocolate Holic
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運+狙
片思いバレンタイン
コプチェフがむっつりです
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何よりも甘い、キミの、
Chocolate Holic
「……何にやついてるんだよ気色悪い」
突然降ってきた友人の言葉に、自分が無意識のうちに唇を撫でていた事に気付く。ゆっくり顔を上げ、友人を見やれば不審気な視線を投げ掛けてきていた。
「にやついてなんてないよ」
「それをにやつくと言わずに何と言うんだ」
はぁと溜め息混じりの呆れた声音で話し掛ける友人に、しつこいよ、と言いながら胸ポケットに手を伸ばし、そこにお目当ての物が無いことを思い出す。
普段ならそれがそこに無いことに不機嫌な気持ちになるのだが、今日はむしろ笑いたくなってしまうのだから仕方がない。
煙草が無いのに顔を綻ばせるコプチェフを友人は睨み、ついにニコチンが頭まできたか、と哀れそうに呟いた。
「きてるかもね…ま、ニコチンじゃ無いけど」
そう呟いてつい先程のやりとりを思い出す。ボリスの真っ赤な、怒って居るのに照れている表情はそう簡単に忘れる事は出来ないだろう。
「あ、誰かからチョコレートでも貰ったんだろ?」
「残念、違うよ」
「じゃあ、何かあったのか?」
「言わないよ」
そう、何かあったとしても教えてなどやるものか。答えながらも、コプチェフの脳にはさっきのシーンが、ボリスの柔らかい、けれど少し荒れてがさついたの唇の感触が触れた瞬間を思い出していた。
それは、あまり人が近付かない資料室での出来事。二人で今回の事件に必要そうな資料を探していた時だった。ボリスが下の棚を、コプチェフが上の棚を見ていると、もともと耐久性があるとはいえなかった棚がほんの少し触れただけでグラグラと揺れ始めたのだ。
それに驚いたボリスが慌てて立ち上がる。その弾みで二人してたたらを踏み、棚を巻き込まないようにと床に倒れた。
その拍子に、コプチェフの身体はボリスに覆いかぶさり煙草が胸ポケットから滑り落ちる。
しかし二人の関心事はそんな事では無かった。唇が、触れているのだ。
「………わ、ぅあ!」
急に起き上がったボリスの所為で歯と歯がガチンと当たった。それが今ここで、何が起こったのかをリアルに表していてボリスが真っ赤に染まる。
「…な、…あ…お、お前………煙草くさい!」
ボリスはコプチェフの煙草の箱を引っ掴むと顔を真っ赤にしたまま全速力で資料室を出て行ってしまったのだ。
それから二時間、コプチェフはニコチンを摂取していない、にも関わらず、今日は禁断症状が出ていない。
もし中毒が出ているとしたら、チョコレートよりも甘い、彼の、
「……顔を引き締めろ」
「悪かったな……て、いたっ!」
コツンとコプチェフの頭に痛みが走る。どうやら、後ろから何かを投げ付けられたようだ。
振り向けばコプチェフから目を逸らし、何かを投げたポーズのまま固まるボリスが居た。
「………忘れ物」
「……確かに」
投げつけられた煙草の箱を拾い上げ、コプチェフはそのまま過ぎ去ろうとするボリスの腕を掴む。
驚いたボリスが、ハッと息を飲みコプチェフを見上げた。
絡み合う視線。
でも、それは僅か数秒のこと。
「さっきのお礼」
悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべたコプチェフは、何処からか取り出した小さなチョコレートを固まったまま動かないボリスの口へと押し込んだ。
そしてコプチェフの手が離れる僅な瞬間。先程のことを連想させるかのように、その唇を親指でそっとなぞる。
「今日はバレンタインだから」
Chocolate Holic
吐息が掛かりそうなほど近くでそう囁くと、コプチェフはひらひらと手を振ってボリスの脇を通り抜けて行った。
君が追いかけて来るまで後5秒。
そうしたら、その唇にもう一度、チョコレートなんかより甘い甘い口接けをしてあげよう。
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今年のバレンタインは運狙で片思い!と意気込んで書いたらコプチェフが気持ち悪いだけの話になりましたー(笑)
むっつりコプチェフめっ!
2012.02.14
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