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□金曜日の夜
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運狙

何よりも怖いのは…

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 そして、忍び寄る足音に気が付いたその子は恐る恐る後ろを振り返る……


『キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』


 コプチェフはその悲鳴に思わず、隣に座るボリスに飛び付いてしまった。





金曜日の夜






「…そんなに怖いなら何で見るんだよ」


 冷ややかなボリスの声に、コプチェフはみっともなくしがみ付いていた自分に気が付いて慌てて手を離す。


「怖がってこその恐怖番組でしょ!怖いけど見たいの!!」


 何が面白いんだか、と言いながらボリスは顔色一つ変えずにホラー番組を見ている。


「こんなん見てギャーギャー騒げるなんてお前もお手軽だな。しかも13日の金曜日関係ねぇし」


 そう、この番組のタイトルが『13日の金曜日!本当にあった恐怖体験』なのだ。いくらロシア人が信心深くこういった心霊現象を信じているとはいえ、確かにあんまりなタイトルだ。番組名にまでケチを付けはじめたボリスに、やはり無理矢理見させるのは良くなかったのか、とコプチェフ考え始める。


「今年は3回も13日の金曜日があるんだぜ?その度にこの番組やるのかよ。くだらねぇな」


「まぁ、定番だし」


「定番ねぇ。ジェイソンどこいったんだよ、ジェイソン」


 下らない、と切り捨てるボリスと他愛もない話を交わしながらも眺める番組は知らぬ間にどんどん進み、今は病院を走る女性が映し出されている。ありがちな病院モノだ。


「珈琲煎れてくる」


 急にボリスがすくっと立ち上がったのでコプチェフは思わずその袖を掴んでしまった。


「…あー珈琲なんて後でいいんじゃない?」


 そう言うとボリスはニヤッと笑い、不誠実にも怖いんだろ?と人をおちょくってくる。


「それはそれ」


「話が噛み合ってねぇよ」


察してよ!本当は怖いんだって!とも言えず珈琲を注ぎにいくというボリスの背中をコプチェフはグイグイと押す。早行ってしまえ!!


 ボリスは依然唇を笑わせたまま席を離れた。そしてコプチェフは代わりと言わんばかりに近くにあったクッションを抱き締めて体育座りをする。



 女性は不審な音のする二階へ階段を登っている。その途中懐中電灯が切れる。まったくもってセオリー通りだ。
 電灯を数回振り首を傾げる。
『どうしたのかしら』独り言だ。まぁいっか、と歩き始め二階につく。


その瞬間――――…………



「…コプチェフ、珈琲」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」『きゃぁぁぁぁぁ!!!』


テレビとシンクロしてしまった。


急に後ろからボリスが話しかけるので飛び上がってしまったのだ。なんてタイミングの悪い!!


「今のそんなに怖かったのか」


「ボ…ボボボボリスが話し掛けるからでしょっ!!!」


 吃りながらなんとか声を絞り出すとボリスは俺のせいかよ、と言いながら隣に座った。そして、コプチェフ腕の中のクッションを見ると、あろうことかそれを奪い取った。


「何するんだよ」


 取り返そうと手を伸ばしたコプチェフをボリスが引っ張るので、コプチェフは彼の膝の上に崩れてしまった。
 すぐに起きようとするが押さえ付けられて身動きが出来ない。


「ちょっと、ボリス?」


 ボリスの腕を掴むがボリスは意に介さず珈琲を口に運んでいる。温目に煎れたのだろう。
 とりあえず体を反転して膝枕状態にする。下から見上げるとボリスは何だよ、と言った。それはこっちの台詞である。


 テレビを見ようと首を伸ばすがボリスが目隠しをしてきて見えない。一体何がしたいんだ。


「見えないんだけどー?」


「こんな下らない番組見る必要はねぇだろ、怖がり」


 そう言うやいなやボリスはコプチェフに目隠しをしたまま口付けを落とした。


 珈琲の味のする長い口付けをし漸く目隠しをしていた手を離す。


「…ボリス?」


 見上げた視線の先、黒曜色の瞳を揺らめかせボリスは何だよ、と悪態をつきながらまたコプチェフの口唇に噛みついた。









「…俺がいんのにテレビばっか見てんじゃねぇよ、このバカ」


 ボリスの呟いたそのたった一言にコプチェフのの恐怖も何もかも何処かに吹っ飛んでしまったのは言うまでもない。


 きっと彼にかかればジェイソンも幽霊でさえも裸足で逃げ出してしまうだろう、そんな13日の金曜日の夜のこと。







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本当は1月の13日の金曜日にアプ予定だったネタ。間に合わず放置していたのですが、カレンダーを見たら今年は3回もあることに気がついたのでリベンジ!

当初、運狙ではなく狙運ぽく書いていたものを必死に軌道修正してみましたー。少しでも笑っていただければ幸いです。

コプチェフって意外と怖がりだと思うんだ(キリッ





2012.04.13.



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