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□祈りの言葉を君に
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運→狙

コプ片恋

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月明かりに照らされる君の横顔は


まるで風花の様に淡く

今にも消えてしまいそうだった





祈りの言葉を君に






 閉め忘れたカーテンはそよそよと風に揺れ、大きな窓から顔を出す月は君を優しく包み込む。


 手足を身体に引き寄せて丸々その姿はまるで、羊水の中を漂う胎児のようだ。


 起こさぬようにソファーに近づき顔を覗見ると、そこには深い焦燥と疲れがくっきりと写し出されている。彼に安らかな眠りが訪れることはないのかもしれない。

 そっと髪を撫でてみた。サラサラと音を立てて落ちていく様は錦糸に触れているようだ。


 前髪に隠された真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳は、瞼に綴じられ今は眠りの中。



 ボリス…

 声に出さずに呼んでみる。


 ボリス、ボリス、ボリス

 ねぇ、気づいて。こっちを見て


 ねぇ、君が好きなんだ。

 好きで、好きで、愛してるんだ


まるで壊れた蓄音機のようにコプチェフは、同じ言葉を紡ぎ出す。




祈りの言葉を君に





 もう一度だけ名前を呼んだ。

 今度は音にして



 「ボリス…?」



 囁かれたその声に反応するかのように、ふるりと睫毛が揺れた。ゆっくりと開けられる瞼の先には、愛してやまない漆黒の光彩が待っている。


 「ボリス」

 もう一度…



 言ってしまえば楽になれるだろう言葉は、きっと君を苦しめてしまう。

 だから『愛してる』という言葉の代わりに君の名を呼ぼう。


 何度も何度も繰り返し、囁いて
それはまるで祈りのように―――







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 何かに祈る時。祈りの言葉が必要だ。それは読経だったり聖歌だったり在り来りな言葉だったり。

けれど世界にたった一つしかない名前は、きっと想いを篭めて呼ぶだけで祈りにもなるんだろうな。




2011/05/15


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