Text2
□祈りの言葉を君に
1ページ/1ページ
運→狙
コプ片恋
スクロールにて表示
月明かりに照らされる君の横顔は
まるで風花の様に淡く
今にも消えてしまいそうだった
祈りの言葉を君に
閉め忘れたカーテンはそよそよと風に揺れ、大きな窓から顔を出す月は君を優しく包み込む。
手足を身体に引き寄せて丸々その姿はまるで、羊水の中を漂う胎児のようだ。
起こさぬようにソファーに近づき顔を覗見ると、そこには深い焦燥と疲れがくっきりと写し出されている。彼に安らかな眠りが訪れることはないのかもしれない。
そっと髪を撫でてみた。サラサラと音を立てて落ちていく様は錦糸に触れているようだ。
前髪に隠された真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳は、瞼に綴じられ今は眠りの中。
ボリス…
声に出さずに呼んでみる。
ボリス、ボリス、ボリス
ねぇ、気づいて。こっちを見て
ねぇ、君が好きなんだ。
好きで、好きで、愛してるんだ
まるで壊れた蓄音機のようにコプチェフは、同じ言葉を紡ぎ出す。
祈りの言葉を君に
もう一度だけ名前を呼んだ。
今度は音にして
「ボリス…?」
囁かれたその声に反応するかのように、ふるりと睫毛が揺れた。ゆっくりと開けられる瞼の先には、愛してやまない漆黒の光彩が待っている。
「ボリス」
もう一度…
言ってしまえば楽になれるだろう言葉は、きっと君を苦しめてしまう。
だから『愛してる』という言葉の代わりに君の名を呼ぼう。
何度も何度も繰り返し、囁いて
それはまるで祈りのように―――
------------------------------
何かに祈る時。祈りの言葉が必要だ。それは読経だったり聖歌だったり在り来りな言葉だったり。
けれど世界にたった一つしかない名前は、きっと想いを篭めて呼ぶだけで祈りにもなるんだろうな。
2011/05/15
感想などありましたらどうぞ
.