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□嗤う月
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皆既月食。
赤緑
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君は皆既月食って知ってる?
それは宇宙の神秘。
満月が地球の影と重なる現象。
その時の月はね、真っ赤なんだ。
鈍く輝く赤銅色の月。
影からしか生まれない月は、まるで彼らのようだと思わないかい?
さぁ、君も見てごらん。
あの嗤う月を―――
嗤う月
日が陰るのが早い12月。
例年よりも雪少ないこの街も、寒さだけはいつもと変わらない。
キンッと冷えきった冬の空気。吐息さえも白く凍てつく。
そんな寒空の中、一人、買い物に出掛けていたプーチンが、バタバタと足音を立てながら家の中へと飛び込んできた。
「キレネンコさん!キレネンコさん!」
息切らし、『ただいま』すら言わずに自分の名前を呼ぶプーチンにキレネンコはスニーカーを磨く手を止め、その寒さで真っ赤な林檎色に染まった顔を見遣った。
向けられた視線の先、その真っ赤な林檎はキレネンコの腕を取り、早口にまくし立てる。
「キレネンコさん、大変ですよ!お月様が真っ赤なんです!スッゴく綺麗なんです!!キレネンコさんも一緒に見ましょう!!」
興奮しながら早口で何を喋っているのかわからないプーチン。怪訝な顔をするキレネンコの服の袖を引っ張りプーチンはキレネンコを外へと連れ出した。
暖かな室内から一転、凍てつく寒さの室外。徐々に奪われていく体温に皮膚が粟立つ。
薄手のシャツを羽織っているだけのキレネンコは、早くも室内に戻りたくなった。
しかし隣のプーチンは、そんなキレネンコに気づくこともなく、ただひたすら『綺麗ですねー』と天を仰ぎ見ている。
つられる様に空を見れば真っ赤な満月がこちらを見下ろしていた。
「皆既月食か…」
白い息と共に吐き出されたその言葉に、プーチンの瑠璃色の瞳が輝きを増す。
「皆既月食ですか?」
プーチンが問えば、いつもは重い口がいとも簡単に開かれる。
興味のなさと、喋るのが面倒なだけであって、その赤髪の下の知識は豊富にて博識。それは学者以上のもの。
プーチンはキレネンコの話すわずかな小さな声に耳を傾けた。
皆既月食は地球が太陽と月の間に入って一直線に並び、地球の影で月の光る面が欠けて見える現象。大気中の光の屈折により、欠けた部分は赤銅色に見える。今、見ている月は既に皆既月食になった状態で月が昇ってくる、月出帯食というものだ。とキレネンコはプーチンに教えた。
「皆既月食って不思議ですね。光の屈折で赤になるんですか?」
不思議に思ったことを素直に口に出すプーチンにキレネンコは更に応える。
「虹と同じだ。あれは大気中の水分に光が反射して七色に輝くが、月食は大気が赤い光のみを通す。だから月が赤く見える」
「ほぇ〜。キレネンコさんは物知りですね。皆既月食か… 摩訶不思議です!」
白い息を吐きながら月に向かって手を伸ばすプーチン。
そんなプーチンを見て、地上の赤い月が微かに嗤った。
嗤う月
「あ!明日は冬至ですよ、キレネンコさん。明日は南瓜料理作りますね!パンプキンスープにパンプキンパイ、カボチャプリンに、えーと…キレネンコさんは何がいいですか?」
(……花より団子だなコイツ)
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日記再録。
ギリギリ滑り込みセーフで書いた皆既月食ネタ。久しぶりの赤緑だった気がする。
2010/12/30
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