長編

□Promise ー想逢ー
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週明けの月曜日。
相変わらず病院内の待合室は診察を待つ飼い主と様々な患畜のおかげで賑やかなものだ。
ここで受付を担当しているのが、研修医であり、助手も務める加藤清正だった。

「おはようございます加藤先生」

「あ、おはようございます」

清正はまだ獣医として働いてはいないので先生と呼ばれる事に少々戸惑いを感じていたが、秀吉らの助手を務めながらいずれは正式な獣医として勤める事を目指している。

差し込まれた診察券を受付箱から取り出し、名前を確認してからカルテを取りに向かった途端。


「貴様は此処を何だと思っているのだ!!」


激しい怒号と共に、おそらく叩き付けられたであろう愛用のバインダーの音。

次いで診察室から慌てて飛び出してきたのは、先程愛犬を診て欲しいと連れてきた若い男だ。

『ああ、またか』と清正は呆れ交りの溜め息を吐く。

顔面に思いっきり四角い痕を付けられた男は出入口のドアを乱暴に開くと、一目散に逃げて行った。

「おい!こいつを連れて行け!!」

その後を追うように出てきたのは、怒号の主で、当院の獣医である石田三成だ。

勢いよく閉まったドアを眺め、やれやれといった表情の彼の腕の中にはふわふわとした栗色の毛が良く似合う犬が抱きかかえられていて、己を置いて去っていく主の背中を気遣ってわんわんと鳴いている。

「そんなに心配するな。ちゃんと家に帰してやる」

先程までと打って変わった優しい笑みを浮かべて三成はその小さな頭を撫でている。
撫でられている犬は、尻尾を忙しなく振りながら黒く円らな瞳を三成に向けてわん!と吠え、それに応える様に三成も犬の頭を優しく撫でてやっていた。


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