特殊系置場

□異類婚姻譚2〜子と鎹〜
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山々に囲まれた秘境にある妖達が暮らす穏やかな村。
此処には訳あって現を離れた妖が古今東西から集って平和な日々を過ごしていた。

その中の一件に妖虎と天狐の夫婦が暮らす屋敷があり、彼らの間にはおとらという名の娘が居た。
彼女は母親譲りの容姿に、髪と毛色は父親譲りの銀という姿をしており、村長の妻であるねねから貰ったお気に入りの大きな虎の人形を抱えている愛らしい様子は村では癒しとなっている。

だが、今日は昼間からその家族が住まう屋敷の方が騒がしい。
居間から聞こえてくるのは穏やかな空気に似合わぬ喧騒である。

「貴様はいつもそうやって!!」

「あぁ!?お前だってそうじゃねぇか!!」

元々お互いに頑固な性格で一度己で決めたらなかなか譲らない夫婦な上、育った環境のせいか三成も女ながらに口が頗る悪い。

その為、こうして激しい喧嘩をする事も屡々あった。
「何だと!?」

「何だよ!?」

顔を突き合わせて睨み合う姿はとても夫婦とは思えず、漂う険悪な空気に庭先の鳥すら外に飛び出していく始末だ。

その喧騒の中に知らず足を踏み入れてしまった者が居た。騒ぎを聞き付けて昼寝から起き出してしまったおとらである。

彼女は険悪な父母の様子に虎の人形を抱えたままおろおろとしているが、当の両親はおとらの存在には気づいていない。

「だいたい貴様は!!」

「お前こそ!!」

互いに牙を剥き出して威嚇しあい、更に険悪さを増していく様子についに耐え兼ねたおとらの双眸が押さえきれない恐怖と不安に涙を滲ませる。

「ちちうえ…ははうえ…」

喧騒に掻き消される程のか細い声で紡がれた娘が己らを呼ぶ声に、清正と三成の耳がびくりと跳ね上がり、同時に振り向いた。

彼らの目に映ったのは何時もは花のように綻ぶ笑顔が似合う顔が今にも泣き出しそうな程に強張り、愛らしい目元には溢れんばかりの涙を溜めた愛娘の姿だった。

ひくりと肩を震わせた姿に二人は慌てておとらの傍に駆け寄ると、清正がその小さな身体を抱き上げた。

「あー!おとら泣くな!」

「私達が悪かった、だから泣かないでくれ」

清正ににぎゅうとしがみ付いてぐすぐすと震えるおとらの頭を傍らの三成が何度も撫でてあやしている。

やがて落ち着いてきたのか、おとらが小さな尻尾を揺らし始めた事に二人は安堵する。
暫くおとらは清正の腕に甘える素振りを見せていたが、昼寝が足りなかったのと、緊張が解けたせいかそのまま寝入ってしまった。

涙のせいで僅かに腫れた目許に苦笑いながら三成はそっと娘の頬を撫でている。
「…あー…三成、その」

「言うな。…その、俺も」
言い掛けた三成の唇を清正が浚う。
すぐに離れた先には何処か困ったような三成の顔があって、清正はこつりと額を宛がう。

「お前も言わなくていい」
解ってるから、と再び重ねた視線の先の三成は何処か拗ねた顔をしていたが、小さく頷く。

午後の一時。
喧騒が去った屋敷には戻ってきた小鳥が小さな花に気遣いながら控え目に囀ずっていた。





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