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□痕-stigma-
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痕-stigma- sample
まだ日が昇りきらない早朝。
枕元で聞こえる衣擦れの音に気付いた三成は、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
まだ居座り続けている睡魔のせいで醒めきらない意識を叱咤しつつ、音の方向に視線を向ける。そこには見慣れた広い背中があり、丁度着物を纏おうとしていたところなのだろう。
目の前に晒された背中は広く、色白だと正則に馬鹿にされている自分とは対称的に、健康的な肌の色をじっと眺めた。
視線だけでその背中を辿っていくと、丁度肩のすこし下の辺りに、赤く細長い線がいくつも見え、思わず頬が熱くなる。
それは昨夜、行為の最中に三成が刻んだ爪痕で、じっと目を凝らして見れば余程深く食い込ませてしまったのか、うっすらと血を滲ませたものもいくつかある。
見るからに痛々しい痕だというのに、清正は最中に痛いと声に出す事はおろか、表情や素振りですら見せなかったので、こうして目の当たりにしなければ気付くことはなかっただろう。
包まる夜具から腕を伸ばし、傷になってしまっている痕にそっと指先で背に触れた。
「三成?」
不意に清正がこちらを振り向いたので、三成は慌てて手を引く。
背に触れた事に気付かないわけはないだろうと思いつつも、三成は言葉を探して視線を彷徨わせた。
「どうした?」
そんな三成の様子に首を傾げつつ、清正は向き直ると三成の髪に手を差しこんで頬を撫でる。
宥めるように撫でてくる手に、三成は己が頬を押しつけるようにして委ねた。
朝が弱いせいで寝起きの三成の機嫌は良くない事が多いのだが、今日は珍しく素直な態度に清正は内心驚いていた。
これは本当に何かあったのではないかと逆に心配になってしまう。
撫でられる手をそのままに、目を伏せた三成が漸く口を開いた。
「その、背中…」
「背中?」
その言葉に『ああ』と清正は頷いて己の背を振り返った。
当然見えるわけではないが、回した手で触ればぴりっとした痛みを感じる。
「痛む、だろう?」
「まぁ…お前がなかなか放してくれないからな」
「っ…馬鹿が!」
わざと盛大な溜め息を添えて言ってやれば、三成は一瞬目を瞠ってから清正に背を向けてしまった。
その瞠った視線が何処か憂いを帯びたように見えて清正は首を捻る。
少々からかいが過ぎたのだろうかとも思ったが、今更な事だ。
清正にしてみれば、指摘されなければ気にも留めなかった程の些細な傷である。
むしろ、こんな背の痛みなど比にならない程の負担を三成に強いているのを思えば尚更だ。
背を向けたままの三成に苦笑しつつ、その身体後ろから抱き竦める。
首筋に顔を埋めて、掻き分けた髪の隙間から覗いた項に口付けると、くすぐったいのか三成が身を捩った。
「俺の事より、お前は大丈夫なのか?」
「…そう思うなら少しは自重しろ」
「出来ないから心配してるんだろうが」
「馬鹿か…」
今度は三成の方が盛大に溜め息を吐いた。
そこに先程見せた様子は微塵もなく、清正も己の気のせいだとそれ以降深くは考えなかった。
to be continue....