短編
□勝敗は秋空の下で
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天高く、馬肥ゆる秋も過ぎ去ろうとしていた晩秋の空は雲一つなく澄み渡り、時折遅れた赤蜻蛉が稀に飛んで行く姿が見える。どちらかと言えば静かで穏やかな時期。
大阪城の一角は、そんな寂しい雰囲気に反して非常に賑やかであった。
「殿!頑張って下さいよ!」
「うっしゃー!負けんなよー!清正ァ!」
其々に飛び交う声援と中庭を埋め尽くす群衆。
その中心は戦場で使われる陣のように囲われており、そこで向かい合わせに佇んでいたのは戦装束に身を包んだ清正と三成だった。
勿論互いの手にはそれぞれ愛用の鉄扇と片鎌槍が握られている。
「容赦はせんぞ、清正」
「それはこっちの台詞だ」
声が飛び交う騒がしい場であるのに、踏んだ砂がざりっと音を立てるのが聞こえた。
それぞれに得物を構えながら、鋭い眼差しを清正に向ける三成に対し、清正は表情は変えないながらも内心で溜め息を吐いていた。
全くどうしてこんな事になったのか。
記憶を手繰れば、事の発端は一週間ほど前に遡る。