長編

□第2話『小さな我儘』
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翌朝、清正は再び三成の元へとやってきた。
既に籠は昨日の位置に出されており、その事を確認して台の上に下りる。

籠に近付いて清正はまず驚いた。
昨日は止り木から頑として下りて来なかった三成が、下に降りて来ていたのだ。
三成は清正の姿を見ると、少々気まずそうに視線を逸らす。
もしかして待っていてくれたのだろうかと、埒もない期待が脳裏を掠めた。

「今日は、下りてたんだな」
「下りてた方がいいと言ったのはお前だろ」

そう言って顔を背けた三成に、清正は小さく笑う。
すると三成はむぅと拗ねたように背を向けてしまった。

「俺が悪かったって。そう拗ねるなよ」
「別に拗ねてなどない」
「じゃあ、こっち向けって」
「だから何でお前に――」
「命令はしてないだろうが」


先に言いたい事を言われた三成は、押し黙ると素直に向き直る。
その顔がやはり少々不機嫌な事に、また笑いそうになるのは堪えた。

険しい表情だった三成だったが、ふと、何かを思い出したように表情を緩める。
「昨日も思ったが…清正は俺を見て何も言わぬのだな」
「何が?」
「外の鳥は、籠の鳥を馬鹿にするものだと思っていた」

三成の疑問に、清正は『ああ』と頷く。

本来、鳥は自由に空を飛ぶものであって、籠の中で飼われているものは鳥にあらずと野鳥どもは言っていた気がする。

「俺も元々は人の手で飼われてたんだ」
「そうなのか?」
「ああ。――ま、飼われるのが嫌で逃げ出しちまったんだけどな」

清正ならば仕方あるまい、と三成は妙に納得してしまった。
それに、清正には籠の中の小さな空よりも、外の大きな空を飛ぶ姿の方が似合っているだろう。

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