長編

□最終話『廻逢』
1ページ/4ページ


時は流れ、萌葱の鳥も番鳥の後を追うようにしてこの世を去った。

更にそれから数年後、ねねも結婚して亡き父の医院を継いでくれた獣医の妻となっていた。

早春の庭先で、ねねはその隅に植えられていた梅の木の下に花を一輪置くと静かに手を合わせた。

この木の下に眠るのは二羽の番鳥。



「―――おねね様」

後ろから声を掛けられて振り返ると、そこには鈍色の髪が目を引く長身の青年が立っていた。

「あら、清正どうしたの?」

「先程、院長から電話がありまして、そろそろ此方に戻られるそうです」

「もうそんな時間?」

時計を見れば、今朝出がけに夫が話していた時間が近い事に気づき、ねねは清正と呼んだ青年を連れ立って、いそいそと庭を離れる。
庭から家の方へ戻る途中は、早春に咲く花の香りで満ちていた。

「そう言えば、おねね様は毎年この時期になるとあの木の下にいらっしゃいますね」

「うん。ちょっといい話があってね」

楽しそうな彼女に清正は少々首を傾げている。

「今度、清正にも聞かせてあげるね」

「はい」

清正と呼ばれる彼は、ねねと彼女の夫でこの病院の院長である秀吉の元に研修医としてやってきた。
秀吉の知人の息子らしく、講師として行った大学で秀吉が彼の真っ直ぐな姿勢に好感を持って連れて来たのだ。
この家には清正の他にも、もう一人住み込みの研修医がおり、子が無い2人には彼らが息子のようなものだった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ