長編

□石田さんは大変なものを残していきました。前編
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こちら大阪城の大広間では、遠方から来た客人の為に秀吉が宴の席を設けていた。
家中の者や親しい者を集めての宴なので、時間が経てば賑やかになってゆくのは道理である。
その席には勿論、秀吉子飼いの将である、三成、正則、清正の三人も招かれていた。

常であれば、三人は並んで席に着いているのだが、今回は少々勝手が違っている。
最初は三人で居た席だったのだが、客人の一人が三成を目に留めて、いたく気に入り、そのまま客人の側へと席を移動させられてしまったのだ。

常々気にしている容姿が、またもや仇となってしまった事に、三成は少なからず苛付いていた。

身内だけならば「鬱陶しいな!」や、「目障りなのだよ!」と言って撥ねつける事も出来たのだろうが、今回ばかりは秀吉の客人で、事情は何も知らない人間だ。

三成は『屈辱だ』と何度も心で毒吐きながらも必死に現状に耐えていた。

その他にもう一つ、三成には容姿の事よりも懸念すべき事があったのだが…

「おや、石田殿。杯が空ですぞ?」

掛けられた言葉に、三成は俯いていた顔を上げた。


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