頂き物

□奏様から
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それは、ある冬の日だった。
昨晩から降っていた雪が、見事に京中を真白に染め上げていた。

しんと冷えた床は、足袋をすり抜けて足を刺す。
斎藤は襟巻に顔を半分以上埋め、足早に廊下を歩いていた。
鬼の副長、土方に呼び出しを受けていたのだ。
早くこの極寒地獄から抜け出したいという、斎藤にしてはいささか不純な動機で廊下を急く。

ふと、きんきんに冷えて赤くなっている耳が、喧騒をとらえた。
どうやらそれは、中庭の方角から流れてくるようだった。
別に、気になったわけではない。
ただ、土方の部屋へ行くにはそちらを通らねばならぬというだけのこと。
斎藤は通りすがるついでに、中庭のほうへちらと視線を向けた。

そして、思わず立ち止まった。

なぜかというに、そこに広がっていた光景が、瞬時には理解しがたいものであったからだ。
中庭にも、白い雪が見事に降り積もっていた。
その中を、平助、原田、新八のいつもの三人がくんずほぐれつやっていたのだ。
襦袢で。
大方、起きて雪が積もっていることに気づき、そのまま飛び出したのだろう。

……馬鹿だ。

斎藤は、口の中でそう呟いた。
あまり関わりたくもなかったので、そのまま通り過ぎ
ようとした。
べしりと音を立てて、斎藤の横顔に雪玉が命中した。
首筋からぐきりと嫌な音がした。



「お、斎藤もやるか? 雪合戦!」
しまった見つかった。
新八の陽気な声はよく響く。
首筋の鈍い痛みにも。

遠慮しておくとだけ言い残し、足早にその場を去ろうとした
そして、ふと気づいてまた振り返った。


「京でも雪が積もっているなら」


三馬鹿がそろって目を瞬かせる。
まさか興味を示すとも思っていなかったのだ。
何を言い出すのかと、斎藤の口元を見つめる。
すこぅし唇が開いて、声が発された。



「……今年は雪下野菜が美味だ」


斎藤にしては珍しく、ふわりと口元をほころばせる。
ぽかんと口を開ける三馬鹿を後目に、再び襟巻を翻して歩いてゆく。
その後ろ姿を見つめながら、いつまでも三人は、襦袢のまま雪に埋もれて立っていた。





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