短編

□過去拍手
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慶応三年・十二月

波乱に波瀾が重なった日々を潜り抜け

今、やっと落ち着いた日々を過ごしている。

しかし、彼‥基
彼女、"露風若菜"の表情は晴れやかとは言い難かった。

(‥昼間平助が居ないだけで、静かなものだ)

屯所の縁側に腰掛け、若菜は空を見上げる。

青々とした空に浮かぶ小さな雲

晴れやかな空が似合う少年の笑顔と重ねれば、胸がじくりと痛んだ。


平助が変若水を飲んだのはいつの事だったか‥

彼が羅刹になってからというものの皆…特に
原田や新八、千鶴の元気がないのは一目瞭然

総司も病の進行により窶れていき
"新選組"自体から光が消えていくようだ

皆の笑顔を取り戻したい

‥そんな不可能で恥ずかしい事は言えないが……


「もう一度、皆の晴れやかな笑顔を見たいな」

陳腐な願いに自嘲を浮かべ、視線を空から地へ落とす。

今己の歳は二十一…年が明ければ二十二だ。

初めて己が新選組に来たのが十八…その当時
己の師・斎藤一は二十一だった。

あの頃の師と同じ歳の自分

だがやはり当時の師と今の己を比較すれば、追い掛けている背中はまだまだ遠く
そして大きい

こうやってうじうじしているといつも思う

やはりあの人は凄い人で
自分はいつまで経っても甘ったれの子供なのだと

「あんたに近付くには、どうすれば良いのでしょうね…斎藤先生」


あんたに弱い時期などありましたか?


「…下らん」

小さく吐き捨てる

考えるだけ無駄だ

仮にそんな時期があったとしても、過去の先生等見ることは叶わない

「……中に入ろう」

身体が冷たくなって来た

よっ…と言う小さな掛け声と共に腰を浮かせた時突然

ぐらりと視界が揺れ、身体が後ろに仰け反った


「吉村っ!!」

「若菜っ!!」


二つ分の叫び声を聞き

彼女の意識は其処で途絶えた…





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