臨床検査技師の恋

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アイツとの出会いは、夜の静けさが満ちた病院でのことだった。

今時の若者らしく短い髪をワックスで整えたアイツは、遠目に見ても羨ましいくらいに整った顔立ちをしていた。

(あれが噂の研修医か…)

新しく内科に来た研修医は、そのアイドル並みの容姿と優しく微笑む甘いマスクで病院中の女性スタッフの噂の的であった。当然、俺が所属する臨床検査部も例外ではなく仕事の合間に交わされる看護士達の会話は噂の研修医のことばかり。
童顔のうえ平凡という容姿を持って生まれた俺からすれば、羨ましいにこしたことはないがもうすぐ三十路を迎える身としては年下の青年に嫉妬するだけ馬鹿らしい気もした。

興味なんてない。

だから、研修医の話に花を咲かせる彼女達を呆れたように見ていた。


そのはずだったのに、今は何故か目の前に佇む男から目が離せない。

(何だ、この違和感は)

胸の辺りがざわざわと騒ぐ。記憶の中の彼と何かが違う。そう感じるのに答えはなかなか出てこない。
一定の距離を保っているうえ、柱が死角になって俺の姿は見えないだろう。それを良いことに、俺はアイツを見つめ続けた。

いや、本当は目が離かったんだ。
そして気づいた違和感の正体。

アイツは、泣いていた。悔しそうに、やり切れないというように目前の壁に思いっきり拳を叩きつける。
一体、何がアイツにあんな顔をさせたのだろうか。



頬をつたう一筋の涙が、ただ綺麗だと思った。





それが、俺と高田の出会いだった。
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