白黒

□白黒
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誰もいなかった。暗い暗い部屋の一室で、信じられるものは自分一人だけだ。
変わりゆく季節。窓から見える外の景色に思いを馳せ、自由を奪った呪いに絶望を覚えたこともあった。

『ねえ、兄さん。僕は貴方の幸せだけを願ってるんです』

嘘をつけ。
おれたちは”同じもの”なのにお前は自由じゃないか。

『いつか、僕が貴方をそこから解放します』

嘘を言うな。
お前にそんな事は出来るものか。

そう、出来やしない。僕を解放することなど―――。



『偉大なる統治者、ソレイユの国王よ。俺からもお前の娘に祝福を贈ろうじゃないか』

激しい雨が荒れ狂ったように降り出したのは、その男が広間に現われてからだった。
全身に黒を纏った男。
フードから覗く瞳だけが赤い。

『あ、あ、あなたは黒の魔法使い……!』

家臣の一人が、声を引き攣らせながら叫んだ。
同時に、一瞬の閃光の後、遠雷が轟く。

『そう―――まさしく俺は黒の魔法使い。せっかくのめでたい席なのに、どうして俺にだけ招待状がなかったんだろうな』

しんと静まり返った広間の中で、男の声はやけに響いた。
ソレイユの国には13人の魔法使いがいた。彼らは国の結界を担う一端として、それぞれ領地を与えられ暮らしているが、ただ一人。
13人目の魔法使いだけは違った。
彼はソレイユに災厄を招くと先代の白の魔法使いによって予言され、幼い頃から国のはずれにある北の塔に幽閉されていたのだ。
その彼が、どうして今ここにいるのだろうか。

『別に復讐ってわけじゃないさ』

国王の瞳に浮かんでいる疑問の色を読み取って、黒の魔法使いはにやりと唇を歪めた。

『俺はお前達を恨んでないし、あの静かな生活も快適とは言わないが気にいっていた』

ただ、と黒の魔法使いの端整な顔にわずかな憂いが浮かぶ。

『退屈で仕方がない』


大仰に肩をすくめ、黒の魔法使いは雨に濡れた髪をかきあげた。


『だからさ、お前の大切な姫君に祝福を贈ろう―――』
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