ひぐらしのなく頃に 長編アンソロジー

□第3章 日常と変化
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「梨花ちゃま、一人でお買い物なんて偉いねぇ」


店の主人はニコニコ笑いながら、梨花の手にあめ玉を乗せる。


今日は梨花が夕食を作る当番である。


だから梨花は買い物に出掛けていたのだ。


店の主人は、梨花が買い物に来るたびにお菓子をくれる。


あめ玉だったり、チョコレートだったり、幼い子どもや羽入が喜びそうなもの。


しかし、梨花はそれが嬉しいと感じたことがなかった。


梨花が百年以上生きていることは関係ない。

食べ物の好みは何年たっても変わらないからだ。


甘いものは嫌いではない。

でも貰うのは嬉しくない。




なぜなら――親友の沙都子は貰えないからだ。




ダム建設に賛成した北条家は、ダム戦争が終わった今でも村の嫌われ者である。

村の人間で、心から北条家を嫌っている者はいないのかもしれない。

それでも、それが村のルールと化しているのだ。


前の世界で、前原圭一はそれを打ち破ったのだ。


そして彼は梨花に教えてくれた。


運命なんて、金魚すくいの網のようにもろいのだと。


今の圭一はそのことを覚えてはいない。

そればかりか、最悪の奇跡が起こった。

けれど、梨花は仲間たちを信じようと思える。

最悪の奇跡は、本当は最悪ではないかもしれない、仲間たちなら最高に変えてくれるかもしれない、と。


楽観視かもしれないが、梨花は今、本当にそう思っていた。


「また来てなぁ、梨花ちゃま」


主人が穏やかな笑顔を見せながら、梨花に手を振る。


「はいなのですよ〜」
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