ひぐらしのなく頃に 長編アンソロジー

□第5章 苦渋と葛藤
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互いに確かめ合う。





とても些細なこと。





でも、大切なこと。





夜、例のごとく沙都子が眠りについた後のことだ。


罰ゲームの帰り道、圭一はレナと会ったらしい。


羽入が二人の会話を聞いていたのだ。


盗み聞きになるのかもしれないが、梨花はその内容を教えてもらった。


お酒は飲まないという約束で。



「へぇ……、そんなことがあったの」



「圭一に殺されたことを覚えているレナが、圭一を怖いと思っても…それは仕方ないことなのです。でも、レナはそうじゃなかったのです。過去の悲劇は、自分の信じる気持ちが足りなかった、もっと頑張らないとダメだった、…レナはそう思うのです」



悲しい過去は忘れる。


けれど、そのときに仲間が感じていた痛みは忘れない。


溜め息が出る。梨花はレナに、心底脱帽したのだ。



「レナって本当に…、強いわね。ちょっと痛々しいくらいよ。どうしてそんなに、仲間を信じていられるのかしら」



「……梨花だって同じ、なのですよ」



――え、私が?



どうして、なんていうのは口に出すまでもなかった。


羽入は梨花の心の疑問に答えるように、言葉を紡ぐ。



「どんなに上手くいかなくても、どんなに悲しいことが起こったとしても、仲間を信じているからこそ……もう一度頑張ろう、そう思えるのですよ。たった一人では戦うことは出来ないのです。だから…だから、梨花だって同じなのです」



梨花だって強いのです、そう訴える羽入の眼差しがこそばゆかった。


梨花は視線を反らす。



「私は……ただ、昭和58年6月を越えた先の未来でも、今と変わらず仲間と一緒にいたいだけよ」



「今回はきっと…大丈夫なのです」



今までの羽入なら考えられない言葉だ。


それは梨花にとって何よりも心強いもので、本当に嬉しかったのだ。


しかし、反比例するような思考に至る。


そんなひねくれた自分に嫌悪感が生まれる。


しかし同時に、やはり自分はただの人間ではなく魔女なのだと実感してしまう。


「本当に――そう思う?」



どう答えてほしいのかも分からない疑問。


羽入の優しい言葉とまなざしに、梨花の弱さがほろりとこぼれ落ちたのだ。




まったく――嫌な自分だった。
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