*小説 1*

□目覚めたら傍にいて 1
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「あ…また」
高月友聖は気づいて足を速めた。
このところ、帰宅途中の背後に人の気配を感じることが続き、今夜もそれを感じていた。
スニーカーなのか少し引き摺るような足音が特徴的で、毎回同じ人物のように思える。
若い女の子じゃないし、そう怖がることもないだろうか。
思い直して、足を止めて振り返る。だがその日もタイミングが悪いのか、誰の姿も見つけられず、友聖は小さくため息を吐いて歩き出した。
──気のせいではない筈なんだけど。
携帯で時間を確認すれば八時を少し過ぎている。
このまま帰るのもなんとなく気持ちが悪い。そう思い、友聖は思い切って来た道を引き返した。先程降りた駅を左に曲がり、今度はファストフード店やファミレス、レンタルビデオ屋がひしめく明るい通りを歩いていく。遠回りになるがこちらは人通りも多い。
少し歩いて、ふと思い立ってコンビニのドアを潜った。ペットボトルの水を買い、アルバイトの女の子に見送られる頃には、小さな不快感も忘れている。
コンビニの通りを五分程歩き、細い道を折れてまた五分程行ったところに自宅マンションはある。周りは住宅地で、まだ明かりは点いているものの、商店街よりはひっそりとしている。マンションのすぐ前にある小さな児童公園にも、今は人一人いない。
念のため周りに誰もいないことを確認して、友聖は外付けの集合ポストから中身を取り出し、それらを手に一階の部屋の鍵を開けた。
──気にしすぎか。
そう思いながら鍵を締め、部屋の明かりを点けたときだった。
突然ピンポーンとインターホンが鳴り、手にしていたダイレクトメールやチラシをばさばさと落としてしまった。
──誰だ?
下駄箱の前に立ったまま、頭をフル回転させる。
先程後をつけてきた──と思われる──人物だろうか。まさか強盗がインターホンを鳴らしてやってくるとは思わないが、この時間に部屋を訪ねられる心当たりはない。
ピンポーン。
もう一度インターホンが鳴る。
動悸が落ち着き、少し冷静さを取り戻してドアスコープに顔を近づければ、そこで
「こんばんは。探偵事務所の佐々木といいます。少しお時間をいただけないでしょうか」
と、予想に反して柔らかい声が響いてきた。
──探偵?
学生時代からの知人たちに思いを巡らせてみるが、ピンとこない。
ドアスコープからぼんやりと見える顔にも覚えはなく、相手がきちんとスーツを着込んでいることだけを知る。
「高月さん、怪しい者ではありません。少しだけお話できないでしょうか」
また柔らかい声が届いた。友聖の知る限り悪人の声には聞こえない。
急にただの来訪者を警戒する自分が恥ずかしくなり、
「はい、今開けます」
そう、友聖はドアノブに手を掛けた。
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