*小説 1*

□目覚めたら傍にいて 3
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 あの夜から一週間、佐々木はそれまで以上に現れ、いつの間にか傍にいるのが当たり前になっていた。
 流石にあんなことになって彼の言動が悪ふざけでないことは理解したが、友聖は未だに、佐々木に対する気持ちを上手く形に出来ないでいた。
「──本当にご飯を作ってもらえて、感激です」
 その日も帰宅途中でタイミングよくスマートフォンが鳴り、佐々木と二人でマンションに帰ってきた。二人で同じ家に帰るなんてどんな関係なんだ、と思わないでもないが、考えてみれば出会いからして突っ込みどころ満載の関係な訳で、深く考えるのはやめた。
「大袈裟だよ」
 佐々木のリクエストである親子丼──佐々木はポピュラーな和食が好きらしい──の丼を下げながら返す。佐々木は食事の最中ずっと料理を褒めてくれ、友聖は恥ずかしさを通り越して、一体この人は普段何を食べているのだろうと心配になった。
「それより佐々木さん。他にも仕事があるだろうに、こんなに俺に掛かりっきりでいい訳?」
 問えば彼が意外そうな顔を見せる。
「あれ? 言ってませんでしたっけ」
「何を?」
「僕、先週から友聖の件に専念しているんですよ」
「え」
 まさかの発言に驚いて、相手に詰め寄ってしまう。
「なんでそんな無茶するの」
「別に無茶じゃないですよ。先週抱えていた案件が一つ片付いて、それから新しい依頼を受けていないだけですから」
「そんな……」
 まさか沢山あった依頼を断ったのでは。そう思えばまた申し訳なくなる。佐々木がこれまでどれほどの仕事を熟してきたのか知らないが、自分の護衛はどう考えても割のいい仕事とは思えない。
 なんと言っていいか分からず黙ってしまえば、佐々木が友聖の腕を引いて胸に抱き込んできた。
「ちょっと!」
「友聖が依頼主という訳ではないんですから、気にすることはないのに」
 逃れようとしても、いつものことながら佐々木の存外強い力に簡単に押さえ込まれて、いつの間にかソファーに押し倒されている。
「僕は一緒にいられる時間が増えて嬉しいんですけど、友聖は違うんですか?」
「それとこれとは話が別……」
 隙あらば唇を寄せてこようとする彼を阻止しようとしていたところに、運よく友聖のスマートフォンが鳴った。佐々木が身体を起こし、何事もなかったように、テーブルにあった電話を差し出してくる。
「はい、電話ですよ」
「ありがと」
 全く、この切り替えの早さは尊敬に値する。そう思いつつ、受け取って通話ボタンに触れた。
「もしもし」
『……高月さんですか? 夜分にすみません』
「いえ、どうかしたんですか?」
 相手は今年四月に入社したばかりの販促部の男性社員だった。声のトーンから、すぐに話の内容を察する。
『実は俺……』
 予想に違わず、彼は会社を辞めたいと言い出した。
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