*小説 1*

□目覚めたら傍にいて 5
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 犯人はもう一人いる──。
「どういうこと?」
 混乱する友聖に、佐々木は
「今夜分かりますよ」
 と、更に訳の分からないことを言った。ぽんと友聖の頭に手を置き、
「先にシャワーを借りますね」
 と、バスルームに入ってしまう。
 それならバスタオルを出してあげなければと思った。巻くものがなかったので、と裸で出てこられたら、その後何をされるか分からない。
 今のうちに洗濯もしてしまおうかと考え、友聖は自分の思考の平和さに苦笑した。
 既に『もう一人の犯人』について忘れている。洗濯機のボタンを押してふたを閉めると、ぼんやり考え込んでしまった。
 佐々木がいるから何も心配せずにいられる。色々と聞かなくても、彼はきっと自分を護ってくれる。
 いつのまにか彼に絶大な信頼を寄せていることに気づいた。気になることがあるとすれば、それは佐々木が危ない目に遇わないかということと、犯人を調べ上げるために無理をしていないかということだ。
「友聖」
 振り向けば腰にバスタオルを巻いただけの佐々木が、心配そうに見下ろしていた。
「心配ですか?」
 佐々木が友聖の頬に触れる。
「ううん」
 彼の手に自分の手を重ねて笑ってみせた。次の瞬間、腕の中に抱き込まれる。
「可愛いですね、友聖は」
「ちょっと!」
 何故そういう話になるのだ、と逃れようとする友聖を、佐々木がますます強い力で抱きしめる。
「心配しなくても、もう友聖を危ない目に遇わせたりしません。余計なことで思い煩わせたりもしませんよ」
「雅紀」
 不思議だ。やはり彼には自分の心の中が見えているみたいだ。そう思い、ふっと笑ってしまう。
「どうしたんです?いきなり笑ったりして」
「なんでもない。俺もシャワー浴びてくるよ」
 だから離して、と言ったつもりだったのに、佐々木は腕を解かないまま、友聖の耳元に唇を寄せてきた。
「ねぇ、友聖」
 艶っぽい声に、びくりと身体が震える。
「何?」
 強がってみたが、動揺はばれているに違いない。
「……シャワーを浴びたいんだけど」
「僕は今、物凄く幸せです」
 噛み合わない会話と佐々木の微笑みに、脳裏に危険信号が点る。
「朝起きたら愛する人が隣にいて、その人がそれは可愛らしい笑顔を見せてくれて」
「……それはよかったね」
「今日はお休みで、僕は今裸で」
 え、と思うより先に友聖の身体は宙に浮いていた。佐々木が友聖を横抱きにして、先程までいたベットの上に運んでしまう。
「ストップ」
 友聖の制止を聞きもせず、佐々木がTシャツの中に手を差し入れてくる。
「雅紀……、あっ」
 敏感な部分に触れられ、思わず声が零れる。意思に反して反応してしまう身体が憎い。バスタオルを取れば佐々木はもう全裸だ。
「友聖に出会って、僕は理性が上手く働かなくなったみたいです」
「弁護士さんには、致命的なんじゃ……」
 全て言う前に唇が降りてくる。
「本業は探偵ですから問題ありません」
 そう、にっこり笑った佐々木と、既に余裕をなくしていた友聖は、その後昨夜の続きのような激しい行為に及んでしまった。
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