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□すべてを手に入れた、彼が欲しいもの
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「そんなもの、決まっている。」

唐突な私の質問に、
優雅にソファーに横たわっていた勘助はたいして考える素振りも見せずにそう答えた。


「え、なになに?!」
「ほう、お前には判らぬか?」
「え、全然わからない。」
勘助は身体を少しだけ起こし、わざとらしく驚いたように言った。


「知りたいか?」

「うん!すっごく!」

「…ではこちらへ来い」

そう言って勘助は意味ありげに微笑むと
下にいた私の身体を引き寄せ、内緒話をするようにそっと唇を耳に近づけた。

「それはな…」

「うん、それは?」











「……もちろんお前だ、真奈。」


たっぷりとたっぷりともったいぶった末の答えはとんでもないもので。
勘助はそう耳元で甘くゆっくりと囁いて
そして
ちいさな果実を食べるように、耳たぶをぱくりと食んだ。

「ち…ちち、ちょっと勘助!」

甘い言葉と不意打ちのキスに、私の顔は一瞬で真っ赤になってしまって…
顔を赤くする私を見て勘助はまた愉しそうに笑うから、余計に恥ずかしくて
どんどん赤くなってゆく。

「…ど、どういう…っ!」


「…どう、とは?
そのままの意味だが。」


「き、……き…きゃ却下っ!!そんなの却下」


「却下?
…ほう何故だ?」

「な、何故って…そんなのダメに、決まってるでしょ!」



勘助はわざとらしく真剣そうな顔をして問う。
困る私を楽しむのが、この人のイケナイ趣味みたいで。
私の手を掴み、逃げられないようにして顔を近づけた。

「さて、誰が決めたのかな。
生憎とオレは知らぬな」



そういうと勘助はいたずらっぽく微笑み、
盗むように唇にキスをした。

さらに加速する、熱の悪循環。


「か、勘助…も、もうっ!
何考えてるの?!」

「知れたこと。
オレは何時でもお前のことだけを考えている。」


「…な………………っ!」



動揺している私をよそに
勘助はまるで1+1の答を答えるようになんの躊躇いもなくさらりと言った。
さらりと紡がれる甘い言葉に、
口が服着て歩いているような勘助に
言い返す言葉を私が思い付くわけもなかった。




「じゃあ、ネクタイとか、タイピンとかそういうの、どう?」
「…今あるもので十分足りている」

「じゃあ……シャツ!」

「二週間まともに洗濯しなくとも、間に合うくらいは持っている。」



「…え……じ、じゃあ、…ス、スーツ!スーツは?!」

「……そんな物を買ったらお前の半年分の小遣いはなくなるぞ。」

「………うっ」

…確かに…私のお小遣いじゃ足りそうにない。


「残念だったな」

「…勘助の意地悪。
ちゃんと考えてよ〜。」

「…意地悪…とはまた人聞きが悪いな」



勘助はふくれる私の頬を手で包み、軽いキスをした。



「オレはお前以外何もいらぬ。物も、金も、地位も、何も。


それよりも今はこうしてお前とのひと時を…」

























「……………ちゃんと考えるまで駄目。」

何時のまにやらニットの中を這いまわる、悪戯な手。
探るように背中を撫でるその不真面目でけしからん手を、ぴしっと叩いた。

「………これは…なかなか手厳しいな。」



勘助は苦笑いして、わざとらしく大げさに肩をすくめた。
さすが元武田軍軍師、抜かりがない。

「本当に油断できないんだから。」

「疾きこと、風の如く。」



そう言って満足そうにほくそえむ勘助のドヤ顔に…

(…いや、巧くないから…!!)

と私は、心の中で突っ込んだ。
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