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□想いの階(きざはし)
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「あはは!

はーい、今開けるよ〜!」



ピンポンピンポンといいリズムで二度鳴るチャイム。
インターホンの画面越しに見える、どアップな顔。
慣れないのかわざとやってるのか、カメラを覗き込むものだから
いつも画面には暁月がめいっぱい映る。



リビングから玄関へと向かう、たった数秒間の、幸せなもどかしさ。







「おかえり!!!!」

「おう、真奈、ただいま。」

ドアの開けるとそこには、会いたかった笑顔。
勢い余って胸に飛びこむ私を、慣れた手つきでそっと支える。
暁月のどアップとおなじく、私のダイブもいつものこと。
廊下の橙色のライトに照らされて、太陽みたいに笑う暁月の表情は、より明るくあったかく見える。



「早かったね。まだ21時半だよ。」

「抱えてた案件が思ったよりも早く片付いてな。
これ、土産な。」

暁月は靴を脱ぎがてら、
ほら、と私に紙袋を手渡す。

渡された白い紙袋に描かれているのはかわいらしいリスの絵と、見覚えのあるロゴ…
…これは…





「…まさかこれ…あのお店のケーキ!!?」




「よいしょっ…と。
ちょうど近くで用事があったからな。
ついでだ、ついで。」


「…すっごく嬉しい!
暁月、ありがとう!!」


「いいって。
冷蔵庫入れて冷やしとけ。
後でゆっくり食おうぜ。


それよりさ……すっげぇいい匂い」

「今日はね、カレーにしたの。
シーフードカレー。
エビとイカ多めにしといたよ。」



「おお!本当か!?
そりゃあ楽しみだな。」



暁月は嬉しそうに目を輝かせてる。
それと同時にグルグルグルと鳴り響く音。
なんて素直な腹の虫。





「もう。
またお昼ごはん食べてないんでしょう?」



「ああ。
忙しくて食い損ねた。
腹減りすぎて目が回りそうだ。」




「ちゃんと食べなくちゃダメだってば。
さ、早く着替えてきて。
その間に支度しとくから。」




「おう!」


そう言って暁月は寝室兼リビングへ着替えに行った。
私は、もう一度コンロに火を付けカレーを温める。













あの日のあと。



暁月は私に、この部屋の合鍵をくれた。
暁月にしてみれば、夜に女の子がひとりで外に立ってるなんて考えられなかったみたい。
「あんな危ない真似、もう二度とするな」って言って。

無造作にてのひらにおかれたその鍵は
どこにでもあるような何の変哲もない鍵なのに、
いままでの人生でもらった物の中で、一番うれしいものだった。










相変わらず仕事は忙しそうだけれど、それでも前に比べたら会う頻度は増えた。

少し早めに終わりそうな時や、それが事前にわかってる日は連絡をくれるから
そんな日は今日みたいに暁月の家で、暁月の帰りを待つ。
部屋を簡単に片付け、たまった洗濯物を干す。
それが終わったらスーパーに行って、食材を買って。

何が食べたいかな、なんて考えながら買い物をするのは、
なんだか奥さんになったみたいでちょっとうれしい。
お店の人に勧められるままポイントカードまで作っちゃった。








時計はもうすぐ9時45分を指すところ。

「あまり遅くなるわけにはいかない」って

暁月は12時前に着くように、私を家まで送るから、
一緒にいられる時間はすごく短い。

だけどこうしてこの家に来るようになって
部屋のちらかった様や、空っぽの冷蔵庫を見たら
寂しいとか、そんなこと言ってられないって思った。


それに、忙しい中、わざわざ時間を作ってくれてるんだもん。
それだけでうれしい。
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